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2019.04.16
辛淑玉連載 たんこぶ
食べることは生きること 
連載第575回
 1980年代、カリフォルニアに「オープンハンドプロジェクト」という、無料で食事を配るボランティア団体があった。生活困窮者や病者に、できたての食事を毎夕、自宅まで届けるのだ。

 登録ボランティアは約500名。専従スタッフは代表を入れて8名。代表の仕事は資金繰りと企業との交渉。食材は、企業から提供される消費期限が切れそうなものと、一般からの寄付で賄っていた。

 代表以外の専従スタッフ7名は、全員腕のいい、それぞれ異なる民族の料理人だった。移民国家米国では、民族的背景も多様で、英語を話さないまま高齢になる人も少なくない。

 この団体がすごいと思ったのは、料理を選べることだった。手渡された注文表では、まず、料理のジャンルが指定できる。メキシコ料理か、中華か、イタリアかという具合に。そして硬さや辛さ甘さなどを指定する。

 当時は、在日の高齢者が、老人ホームで「キムチが食べたい」と言って事切れる事例が少なからずあったので、これには驚いた。できたての料理(1・5人分)を、毎日ボランティアが保温箱に入れて手渡しで届ける。量が多めなのは、他の家族も食べられるように、また、余ったら翌朝も口にすることができるようにだ。

 その家庭に子どもや歩ける家族がいれば、配達所まで取りに行くと、インスタントの食材やお菓子、果物といったものを一袋分、一緒に渡してくれる。子どもたちはこれで飢えを凌ぐ。

 個人や民間団体ができることは限られている。全ては支えられない。しかし、できることの中でも、『何に重きを置くか』ということの大切さを教わったように思う。

 ドイツにいると、日本食を食べるのは本当に高くつく。最近、喘息で2カ月ほど床に伏していたが、そのとき食べたかったのは、キャベツのぬか漬けだった。きっと、死ぬときは、キムチではなくぬか漬けが食べたいと言うんだろうなぁ、と思った。あらためて、自分が文化的には日本人なのだと思い知らされた。



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