今週の新社会

「3.11」から10年 中
PTSDを発症 地震や原発事故避難によって

2021/03/16
蟻塚亮二医師の報告


 筆者は沖縄にいた2010年に、戦後65年後に発症した沖縄戦PTSDを見つけた。その直後に東日本大震災が起きたので、「福島でも沖縄と同じように50〜60年後に高齢者にPTSDが発症するかもしれない」と考えていた。

 それは全く見当違いであった。震災から2年後の2013年、筆者が福島県相馬市の診療所に赴任したその月のことだった。

 津波で母親が流されて父親と仮設住宅で暮らしていた30代の女性が、大好きな叔母が亡くなったのを契機に急に眠れなくなり、泣き出し、津波の場面がフラッシュバックして診療所に来られた。彼女は震災から2年後に発症したPTSDであった。

 別の女性は、大震災の翌月から「足の裏から灼熱感が上がってくる」という訴えに悩まされていた。あちこちの病院を転々としたが、原因不明で改善しなかった。翌々年に筆者の診療所に来られたが、これは沖縄で見たUさんの症状と同じであった。「これは治りますよ」と言ったら、2週間後によくなり、とても喜んでもらえた。

 沖縄戦で母親とともに戦火の中を逃げた14歳の女性のUさんは、50代になり、足の裏から上がってくる灼熱痛に20年も悩んでいた。筆者が沖縄戦によるトラウマ症状だと診断して回復した。

 風呂に入ると鳥肌がたって、入浴できないという人もいた。勝手に「入浴後鳥肌反応」と名付けた。恐らく震災後の交感神経緊張によって、温度感覚や血管運動神経が過敏に反応するせいであろう。入浴の時には、必ず帽子をかぶって入るという人もおられた。聞くと、お湯に入ると大汗をかくが、頭だけはお揚から出ていて、頭の汗が冷えてくるためだという。

 筆者は、福島の被災地に赴任して、それまでうつ病とされていた人が震災によるPTSDであることを突き止め、新しく診察に来られた人の中に震災や原発避難のトラウマを見つけた。