今週の新社会

危うい〝抑止力〟論
武力で平和は創れない
敵をつくらない平和外交を

2022/05/18
     ロシアのウクライナ侵攻による戦禍は拡大している。ロシア、ウクライナ、そして全世界の人々が戦争の終結を望んでいる。そんな中、ロシアの戦争を通じて、日本の安全保障政策に与野党を問わず大きな変化が生まれている。それは核兵器を含めた、武力による「抑止論」の台頭だ。この動きは、憲法をないがしろにした危ういものだ。

核兵器の恫喝 

     ロシアの戦争で、武力による「抑止力」が世界を席巻している。 

   「抑止力」とは、相手国に武力で恐怖を与えて攻撃を控えさせる論理だ。この抑止力論の典型が「核の威嚇・恐怖」の論理である。 

     世界はアジア・太平洋戦争の日本への原爆投下の威力と想像を絶する被害を目にした。 

     これ以降、米ソ冷戦期では、互いに核兵器を保有し、「恐怖の均衡」と当時のイギリスのチャーチル首相は言明した。 

     核兵器を使用すれば、反撃の核攻撃で、世界は熱核戦争で破滅するので使えない兵器だった。 

     だが、今日「戦術核兵器」が開発され、地域に限定した攻撃が現実味を帯びてきた。現にロシアのプーチン大統領は、戦術小型核兵器の使用を示唆する発言で戦局を打開しようとしている。

     核兵器禁止へ 

    だが、ある国が核兵器を使用しても敵国を第一撃で全滅できない。地域に限定した戦術核兵器でも敵の報復が戦術核兵器とは限らない。戦争がエスカレートすれば人類存亡の危機に発展する。 

    核兵器の連鎖を止めるには、核兵器の禁止以外にない。 

    これまで国連では様々な核軍縮の努力がされてきた。昨年1月には核兵器禁止条約が発効し、今年3月には60カ国が批准している。「核兵器禁止条約」は核兵器の「開発・実験・製造・備蓄・移譲・使用・威嚇」を禁止しているが、日本は条約に加わってはいない。

動揺するな野党 

    日本では、にわかに「抑止力」や「核共有」が浮上している。4月21日、自民党安全保障調査会は「相手国の指揮統制機能」にも反撃できる「敵基地攻撃能力」を唱え、敵国が日本に向けてミサイル発射準備の段階でも先制攻撃を可能とし、敵国の攻撃を抑止するとした。 

    一方、ロシアのウクライナ侵攻の中、野党からも武力による「抑止力」論が出始めている。 

    立憲民主党は7月の参議院選挙の重点政策で、核兵器を含む日米同盟の抑止力強化を議論する「日米拡大抑止協議」の活用を公約に盛り込んだ。これでは日本の「核共有」論に事実上踏み込むことになる。 

    また、国民民主党の前原誠司元外相は4月にNPO法人の「抑止力」をテーマとしたシンポジウムで、「防衛産業基盤の育成と敵基地攻撃能力が必要」と発言した。 

    共産党の志位和夫委員長は4月7日に、平和への外交の努力を基本とするが「万が一、急迫不正の主権侵害」には自衛隊の活用を提起し、世間を驚かせた。

敵をつくらない 

    米軍基地や原発が全国に存在する日本は完全に防衛できない。 しかし、核の抑止に限らず、通常兵器の開発と保持はエスカレートする。敵を上回る兵器に巨額の血税が使われる。現に日本の防衛費(軍事費)は、5年間でGDP比を1%から2%を目指しており、青天井だ。 

    ロシアのウクライナ侵攻の教訓は明確だ。ロシアの戦争は、経済は一国では自立せず、他国との相互関係に依存していることは明白だ。また、武力では平和は創れないことも再確認できる。 

    日本には憲法前文と9条がある。日本の安全保障の基本は、武力による「抑止」ではない。政治、経済、文化など、各国との交流で友好を深め、敵国をつくらない外交と安全保障政策だ。