鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

水に落ちた犬は打て 第43回

2021/02/23
 衛星放送関係の会社の幹部である菅義偉首相の長男が、監督官庁である総務省の局長などを接待していた。この事実は、安倍政治が7年8カ月も続いた泥沼の一端にすぎない。

 妻が森友学園の利益に関わっていながら、安倍晋三前首相が「私や妻が関係していたということになれば首相も国会議員も辞める」と大見得を切ったため、官僚が資料を改ざん、自殺者までだした。

 安倍政権は、この問題だけで139回もウソの答弁を続けた。その中心に坐っていたのが、菅首相なのだ。GoToトラベルの利益誘導ばかりだけでない。コロナ対策にもつまずき、菅政権は支持率30%台の低空飛行。オリンピックとともに、墜落の見通しが強まってきた。

 ところが、「改正コロナ特措法」の政府原案にたいして、自民党との修正協議で立憲民主党が、他の野党を「蚊帳の外」に置いて合意した、との批判が高まっている「少数野党 恨み節」毎日新聞の見出し(2月8日)だ。

 この法案は、当初、コロナに感染して、入院を拒否した人への懲役や罰金などの「刑事罰」を想定したものだった。緊急事態の罰則を強めるとは、自民党が謀っている憲法改悪の中心部分。火事場泥棒的な設定に警戒を強めて当然である。

 いまの問題点は、野党の反対によって刑事罰は前科のつかない「行政罰」の「科料」に修正したとはいえ、政策のミスを、国民を罰する法律でカバーする本末転倒である。それと「二大政党」の国会対策委員長が、「審議4日間」のスピード日程で合意したことである。国会が形骸化される、民主主義の根本に関わる問題だ。

 そればかりではない。内部的には「後見人」二階俊博自民党幹事長との関係の冷却化が噂され、外部的には首相の統治能力に疑問が深まっている。短期政権はまちがいない。

 ところが立憲民主党内に、あまりにも失政を追及すると、国民の支持を失う、との配慮がでてきたようだ。これは逆だ。そんな余裕はない。魯迅(ろじん)の教えに従え。「水に落ちた犬は打て」。