鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

会食接待と生活保護 第45回

2021/03/09
 菅義偉首相の「長男」が勤める放送関連会社「東北新社」が、電波行政を監督する総務省の高級官僚たちを「アゴアシ」(飲み食い、お土産、タクシー券)付きの接待をしていた。

 今まで判明しているだけでも、13人、39回、60万円。その半分の21回の会席に正剛氏が参加している。というよりも首相の長男がいるので参加した、というところだ。

 総務大臣だった父親の秘書官に引き上げられていた正剛氏は、その縁で東北新社に入社、中途採用でありながら異例の出世を遂げている。なお、菅首相は同社から500万円の政治資金を受けている。

 安倍公私混同泥沼内閣で、采配を振るっていた官房長官が首相に成り上がった政権党での、体質的なスキャンダルだ。

 まだ驚くべきなのは、首相宣伝担当というべき「内閣広報官」が、次官級の総務審議官だった当時、東北新社社長と正剛氏など5人で会食、なんと1人当たり7万4千円の接待を受けていた。

 1人で7万円余の飲食という、庶民には驚くべき別世界だ。なんと高級官僚は甘い汁を吸っていることか。公僕というよりも、まるで「私僕」というべきだ。

 総務省内で、利益相反というべき、「首相長男」の官僚接待の調査報告が発表されていたころ、大阪地裁では生活保護基準引き下げを巡る訴訟で、減額した決定を取り消す判決が言い渡されていた。

 保護費引き下げの国の判断は違法、とする判決である。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」と憲法で保証されているはずだが、2013年から3回にわたって、生活保護費のうち、生活費に関する基準を10%も引き下げた。

 原告の小寺アイ子さん( 76歳)が支給されているのは、3万5千円。年金と合わせた、月11万円で暮らしている。この間の1万円の引き下げは大きな打撃だ。

 菅首相は「生活に行き詰ったら生活保護がある」と言い放った。政治家と民衆との、住んでいる世界があまりにも違いすぎるのでは、民主主義国家とはけっしていえない。