鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

デタラメ公害政権 第51回

2021/04/27
 福島原発事故のあと、敷地内に溜まった、トリチウムをふくんだ、高濃度核汚染水を太平洋に放出すると菅内閣は閣議決定した。世界にむかって、政府が環境汚染を宣言したのだから、国辱ものだ。

 昨年2月、政府の委員会は汚染水の処分について、「現地や関係業界と丁寧に議論して、国民的合意ができたら政府が決定する」としていた。

 汚染源の東電は「関係者の理解なしには、いかなる処分もおこなわない」と確約していた。だから、菅内閣の今回の閣議決定は、裏切りばかりか、世界に敵対する環境破壊で民主主義のひとかけらもない。

 しかし、これまで閣議決定したものの、実際には実行できなかったものは無数にある。たとえば鳴りものいりで喧伝された、田中角栄時代の「新全国開発計画」(新全総)。日本列島改造計画と大評判だったが、オイルショックで雲散霧消。

 だから、閣議決定されたからといって、諦めることはない。核汚染水の海洋廃棄は、国際世論とともに反対運動を強め、阻止できる。

 核汚染水がいつのまにか、「処理水」と変異、あたかも「浄化水」のように宣伝されている。が、多核種除去設備で処理しただけで、トリチウムなどの放射性物質が処理されているわけではない。

 トリチウムは食品からは検出しにくい。それでいて体内に取り込まれれば、細胞やDNAにダメージを与える。希釈すれば無毒化できる、というのは欺瞞(ぎまん)だ。世界的に原発周辺で、小児がんや小児白血病が発生している。その因果関係が疑われている。

 「処理水」というのは、危険性を隠蔽するフェイクだが、「風評」もまた危険性を拡散させている。「風評」は「風聞」。根も葉もない、噂のイメージだ。が、猛毒のトリチウムが、「排水可能」なまでに希釈するには、膨大な電力と時間を浪費する。タンクの大型化、モルタル固化処分の方法がある。

 それで菅内閣は、もっとも安易な海洋廃棄を閣議決定した。沖縄・辺野古の海を汚染させているのとおなじ、犯罪的な行為である。