鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

コロナ下の猛攻 第55回

2021/05/25
 「国民の命と健康を守り、安全・安心な大会を実現できるように全力を尽くすのが私の責務だ」

 オリンピック開催の危険性について、質問されても、菅首相はオウム返しに答えるだけだ。

 自分の権力維持のための「本土決戦」論である。大阪ではすでに医療崩壊。救急車の到着を待ちながら、無念のうちに息を引き取るひとたちが続出している。

 「復興の証」(安倍晋三)から「人類がコロナに打ち勝った証」に格上げした菅首相、とにかく「神風」に期待するように、またオリンピック開催を諦めていない。

 コロナ対策でゴテゴテなのは、側近にイエスマンだけを置いているからだ。米国60万、インド30万、ブラジル45万の死者と比べれば、「日本はさざ波程度」とあざ笑う内閣参与を重宝するお粗末。

 敵の力を侮る「聖戦」主義。ミッドウェイ海戦で大敗北を喫しても、精神論で国民を鼓舞していた「日本軍部」の玉砕主義である。権力者の関心は自分の競争の勝ち負けだけ、人間の悲しみに無関心なのだ。

 官房長官時代、菅氏はいつも下向きで秘密っぽかった。記者会見でもはぐらかしていた。が、首相になったいまは明るく振舞おうとしているようだが、答弁は相変わらず官僚の作文を読み上げ、率直ではない。ウソをつき通した安倍前首相とは陰と陽のちがい、と言うべきか。

 安倍は自衛隊の海外派遣、集団的自衛権行使容認など憲法九条の基盤を破壊する攻撃を行った。菅は「オリンピック・ファースト」。検査、ワクチンの手当で完全に世界的な遅れをとって「国民の命と健康の安全、安心」を脅かしている。

 このコロナ危機の中で「火事場泥棒」と表現できるように、デジタル法案、医療費の二倍化法案、出入国管理法案を成立させた。残念ながら、これが与党が国会多数の現実だ。

 憲法改悪への「最初の第一歩」(菅首相)と位置づける「国民投票法改定案」を衆院通過させた。コロナ対策の失敗で、「緊急事態」の頻発を呼び込み、平和憲法の本丸を狙っている。いよいよ反改憲闘争の本番だ。