鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

外国人弾圧入管法 第57回

2021/06/08
 5月25日号のこの欄で「入管改定法案成立」と書いてしまった。入稿後、菅内閣が選挙を心配して国会成立を断念、廃案にした。誤報になって恥かしい。訂正しお詫びします。

 政府が急にこの法案を廃案にしたのは、名古屋の入管施設に収容されていたスリランカ女性ウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件による。

 日本に語学留学していたウィシュマさんは留学ビザが切れて「不法残留者」として、入管施設に収容されていた。収容とは拘留で居室には鍵がかけられている。

 1月下旬から体調を崩し、嘔吐や吐血していたが、適切な治療も入院もさせられないまま、3月上旬死亡した。入管施設の待遇は悪評たかく、いままでにも死亡者が21人、自殺者が5人を数え、待遇改善を訴えたナイジェリア人が餓死する事件もあった。

 収容にあたって、裁判もなく、収容期間も無制限、今回の法案には「送還停止を2回に制限」との規定があり、強制送還が強められる懸念があった。命からがら逃げてきた政治的難民を出身国に帰せば命に危険がある。

 難民として認められたのは、昨年の実績で47人、認定率1.2%に過ぎない。国連人権理事会からも「国際的な人権基準を満たしていない」と批判されている日本は人権低国なのだ。

 60年代、沖縄や東北から大量の出稼ぎ労働者を集めた。その後の人手不足に対してはイランやアジア各国から出稼ぎ労働者を集め、不景気になると追い返す。いまは技術移転などの名目で単純労働者を入国させ、こき使って路頭に迷わす。

 この国では、化粧品会社DHCの吉田嘉明会長のように、露骨な在日、韓国人ヘイトを公言する差別主義者が大手を振っている。かつての中国、朝鮮などの植民地支配の歴史を反省していない恥かしい現状だ。「外国人は犯罪予備軍」の偏見が根強いのが、日本の入管官僚だ。

 ウィシュマさんの死は、入管職員の治安弾圧であり、日本人のアジア人差別意識を反映した虐待だ。戦時中に日本人は何をしたのか、いままた問われている。