鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

花岡事件の心 第63回

2021/07/27
 大言壮語の安倍晋三、無言不実行の菅義偉、暴言妄言の麻生太郎。政権党幹部の言説ほどあてにならないものはない。それでも麻生副総理の「呪われたオリンピック」発言だけは、珍しく真っ当な発言だった。

 かれらに共通するのは、先の大戦で日本がどれほど隣国の中国や韓国などの人びとを虐殺、虐待したのか。

 その加害の罪に無知、無関心、無反省なことにある。それは今後の恐怖だ。

 戦時中、強制連行され、虐待、虐殺、病死した中国人429人の慰霊碑が、秋田県大館市の公園墓地にある。その「中国殉難烈士慰霊ノ碑」の前で、毎年6月30日、市民と中国からの遺族や中国大使館参事官などとともに慰霊祭が行われる。

 市の職員が準備し、保革関係なく歴代市長が弔い、遺族たちが献花し、泣き崩れる光景をなんどかみた。

 このほど出版された池田香代子『花岡の心を受け継ぐ』(かもがわ出版)は、サブタイトルが「大館市が中国人犠牲者を慰霊し続ける理由」というもので、慰霊式をささえているひとたちにインタビューしている。

 花岡事件とは、あまりにも酷い労働条件にたいして、中国人労働者が一斉蜂起、逃亡。拷問などで一挙に282人が死去した日中間の重大な負の歴史である。

 が、それを乗り越えて鉱山側と補償交渉、慰霊祭の実施、遺族との「和解による解決」の道を歩んだ模範的ケースである。元大舘市長の小畑元さんはこういう。

 墓地の入り口にある殉難碑に、いつもお供えものが置かれてある。それをみて「あ、これだな」と思った。蜂起が6月30日、あと一ヶ月半我慢していたら、日本の敗戦、命を落とす事はなかった。あまりにもかわいそうだ。そう感じている市民がいる。そういう自然な市民感情が、慰霊祭を続けている理由だ、という。

 麻生副総理は、「日米一緒に台湾防衛をやらなくては」などと言い放っている。頭はまだ戦争中だ。麻生炭鉱は朝鮮人ばかりか、オーストラリア、 オランダ人捕虜も使役していた。「花岡の心」を学べ。