鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

8月、希望の出発 第66回

2021/08/17
 8月は傷痕と希望の月。大量虐殺の極限としての原爆投下と遅すぎた敗北宣言。傷だらけの平和だったが、希望の出発の月でもあった。

 国民学校( 小学校)一年生だったわたしは、その日の眩しい青空の記憶を、平和憲法の精神として生きてきた。

 いま、「敗戦の誓い」を自民党は地に捨てようと執拗な攻撃を加えている。自衛隊の海外派遣と武器使用基準の緩和。集団的自衛権によって、日本は米軍の戦争に引きずり込まれそうだ。米軍の支配下にある米日合同訓練が、活発化している。

 戦争の最前線にいるのが、海運労働者である。海員組合の人たちは、安保法制は違憲として裁判をつづけている。戦争に巻き込まれたり、海賊にねらわれたりしながらも、「平和愛好国」の船として攻撃を免れてきた。

 「1980年代のイラン・イラク戦争の只中、日本の船は中立国の証として甲板と船側に大きく日の丸を描いてペルシャ湾の奥深く入り、両当事国から原油や貨物を積み出しました。日本政府は、各国の政府・現地大使館・商社・代理店と綿密な連絡をとりながら、一隻ごとに進路や通過時間の決定に協力しました」(竹中正陽「海運は平和な海なくして成り立たない」『羅針盤』を発行する会、2021年7月20日号)。

 この結果、無法な爆撃によって世界中で407隻が被弾し、333名が死亡したのだが、日本船の被害は12隻、死者は2名にとどまった。日本がイラン・イラク両国ともに友好国だったからだ。

 戦争はしない、という海外にむけての外交努力が、船員労働者の命を守ってきた、と竹中さんは書いている。

 しかし、集団的自衛権によって「紛争国」になると、どうなるか。

 日本が運航する2500隻以上の外航船、2千人弱の日本人船員と日本企業に雇用されている6万人の外国人船員の命が危うくなる。まして、海外からの物資の輸入に依存している日本社会は、立ち行かない。

 それでも、米軍とともにまた戦争をはじめるつもりなのか。自民、公明共謀政府は。