鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

排外主義と独善主義 第72回

2021/10/06
 ドイツがまだ統一される前、1987年に、西ドイツの作家・ギュンター・ヴァルラフの「最底辺」(岩波書店)が翻訳、出版されて話題を呼んだ。トルコ人に変装して、外国人出稼ぎ労働者として働きドイツ人のトルコ人労働者への差別と迫害を徹底的に暴露した作品だった。

 わたしもその14年前にトヨタ自動車で働き、出稼ぎ労働者にたいする差別待遇を「絶望工場」と書いて、草柳大蔵という評論家から「潜入」は「アンフェアだ」と批判された。トヨタの代弁者のような態度だったが、それからほぼ半世紀たって世界は大きく変わった。

 移民労働者がヨーロッパばかりか、「移民の国」アメリカでさえ排除されるようになった。日本でもこれからの課題になりそうだ。8月24日号のこの欄でも書いたが、スリランカからの女性留学生を死に追いやった入管施設での迫害行為は、日本人の脱亜入欧意識と排外主義の根強さを示している。

 日本でも失業者がふえている。それでもキツイ、キタナイ、キケンな3K職場は嫌われている。80年代後半、それらの職場にあてがわれたのは、日系ブラジル人だった。ブラジルの日系人は122万人とも言われているが、移民80年を迎えたころ、逆流現象として「デカセーギ・ブーム」となった。

 が、このとき、取材していたわたしを驚かせたのは、「戸籍謄本を持参せよ」という採用する側の要求だった。日本人の血が流れていないと不安だったのだ。それから日系人を帰してベトナム、中国、インドネシア、フィリピン、ミャンマーからの実習生に切り替え、現代に至った。

 いま、コロナ禍のもとでの姑息な「実習生」制度は、ますます「絶望工場化」している。使い捨て政策をやめ、労働者として、人間として、キチンと向き合うことが必要だ。最低でも家族同伴を認める。将来にむけては、「移民」として受け入れる対応が必要だ。

 超収益トヨタでの、過労死やいじめ自殺も発覚している。労働組合はなにをしているのか。弱者切り捨て「本工独善主義」は、かつての帝国主義的「産業報国会」となろう。