鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

「決断」と「胆力」という悪政  第87回

2022/02/02
 「人の噂も七十五日」。世間の忘れっぽさの表現だが、安倍晋三元首相、またぞろ出てきた。 「モリカケサクラアベノマスク」は「アンダーコントロール」とともに、小市民性と大言壮語の「アベ政治」を象徴している。いい加減さとみみっちさ、というべきか。

  後世「アベという首相がいた」というときに、必ずでてくるキーワードだ。 

  新年発売の「文藝春秋」に「独占インタビュー」のふれこみで出てきたのが安倍元首相。これまでも、元文春社員の花田紀凱が主宰する「HANADA」にも登場していたから、「独占」というほど珍しいものではない。 

  出たがり屋が「人の噂も」に浮かれ、待ちきれなくなってでてきた。そのタイトルが「危機の指導者とは」、いやはや。チャーチル、ニクソン、李登輝の写真を背後に従えての身のほど知らず。 

  のっけからまず外遊自慢。「私より以前に歴代最長政権だった佐藤栄作元首相でも、外遊は延べ十一回に過ぎません。一方、私はロシアのプーチン大統領との首脳会談だけを数えても、二十七回になる。首脳会談千七十五回、訪問先は延べ百七十六の国・地域と桁違いの数字となりました」。 

  ご外遊は国税による政府専用機。それまで最多の佐藤元首相より桁違いの国費が消費された。 

  いまなお記憶に鮮明なのは、トランプが大統領選挙に勝ったとみるやさっそく50数万円のゴルフドライバーを貢ぎ物に、ニューヨークのトランプタワーに駆けつけ、媚を売った。 

  日本の首相として恥ずかしい行為だった。その結果が米軍需産業を活気づかせ、日本経済を破綻させかねないF35ステルス戦闘機のバカ買いだった。 

  それでも、かつて強調していた北方四島返還要求は、二島返還の5割引にしても、役者が数十倍上のプーチンには歯がたたず、ゼロ回答。北朝鮮との拉致被害者家族にもリップサービスだけの期待はずれだった。 

  憲法改悪、日米軍事同盟強化、治安弾圧を狙う秘密保護法の制定など、強権恣(ほしいまま)の悪政を、いま「決断力と胆力」と自画自賛。