鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

続・裏切られた少女の希い  第103回

2022/06/08
  ロシアのウクライナ侵略を背景にした、バイデン・岸田会談。岸田首相は、日本の防衛費をさらにふやして、防衛力を抜本的に強化すると誓った。会談の主要なテーマが日米軍事同盟の強化だった。 

  岸田首相が「敵基地攻撃能力の保有」をふくめて、「あらゆる選択肢を検討する決意」を述べると、バイデン大統領は「強く支持する」と応じた。 

  会談後の記者会見で、中国が台湾に侵攻した場合に、米軍が軍事的に関与するかどうか、と記者団から質問され「イエス。それが我々のコミットメント(誓約)だ」と答えた。

  さすがに、安倍元首相が主張する「核共有」の方針は確認されなかったようだが、軍拡強化から戦争へと進むのを容認する首脳会談だった。ウクライナのゼレンスキー大統領が、「ウクライナがNATOに加盟していれば、ロシアの侵攻はなかった。それが歴史的失敗」と言ったのを受けて、これから戦争危機―軍備増強論が横行しそうだ。 

  会談後の共同声明に、権威づけとして、沖縄辺野古の新基地建設が言及されている。これらの報道を読みながら、わたしは沖縄出身の歴史学者・新崎盛暉さんの「沖縄を米軍政下に置いている不条理がいわゆる『平和憲法』の成立と結びついている」(『わたしの沖縄現代史』岩波現代文庫)との指摘を想い起こしていた。 

  「非武装国家日本」が「アメリカの目下の同盟国」へ、「沖縄の分離独立支配」が「沖縄の日米同盟の軍事拠点化」と実質的に変化する「構造的差別」を、新崎さんは鋭く批判していた。 

  全島米軍基地といっていいほどの、沖縄の大いなる犠牲と苦悩にはまったく無頓着に、本土のわたしたちは平和を謳歌してきた。 

  そしてさらにいま「台湾危機は日本危機」と言い募りながら、その犠牲を奄美群島、沖縄本島、宮古島、石垣島、与那国島に押しつけようとしている。自衛隊とミサイルを配置しての要塞化である。 

  沖縄の平和を抜きにして憲法第9条は存立しえない。憲法9条が沖縄に適用されないかぎり、日本の平和はない。