鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

腐敗する政権と司法  第138回

2023/03/08
  3月13日。東京高裁で袴田事件の判決がだされる。もはや「再審開始決定」以外の判決はありえない。司法の名誉がかかっているはずだ。

  袴田事件は、清水市(現静岡市)の味噌工場の専務宅で発生した、4人を殺害、放火逃亡した残虐な犯罪だった。容疑者として逮捕されたのは、社員の袴田巌さんだった。

  袴田さんはプロボクサーとして活躍していたが、引退して静岡に帰っていたので「ボクサー崩れ」として、警察に目をつけられた。そのころ、元ボクサーたちはキャバレーの用心棒などをして、差別されていた。警察と世間の差別感情が生みだした冤罪は、被差別部落の石川一雄さん(狭山事件)や在日朝鮮人などに多かった。

  袴田さんの取り調べは過酷で、1日12時間、17時間を越えることもあった。それだけでもデュープロセス(正当な手続き)違反として、無罪に該当するほどだ。

  一審を担当した熊本典道・陪席裁判官は無罪の心証だった。が、裁判長はマスコミと世論の高まりに抗しきれず、有罪判決を書いた、と後年、告白した。有罪=死刑だった。

  証拠とされた犯行時の着衣が、パジャマだったと自白したが、1年後に、「5点の衣類」だった、と警察側が訂正した。が、本人のサイズにはあわず、付着された血痕は時間が経過しても、赤色を保っていて不合理だった。

  2014年3月、静岡地裁の村山浩昭裁判長は再審開始決定。「これ以上の拘留は人道に反する」として即時釈放命令をだした。が、検察側が抗告して再審に至らず、最高裁が高裁に差し戻し、この13日に判決を迎える。

  日本の自供偏重の取り調べは、多くの冤罪を生んできた。過ちを改めるのは司法の責任だ。袴田事件と狭山事件の冤罪を解決しないかぎり、日本に民主主義はない。司法の劣化は、はなはだしい。

  安倍政権下で、当時の東京高検の黒川弘務検事長は、賭け麻雀で失職したが、「安倍政権が続いて、黒川さんがいたら、五輪汚職なんて立件できなかったでしょうね」と検察庁上層部のⅩ氏がいった(古賀茂明「週刊朝日」2月24日)。