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鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」
大江さんの伝言 第142回
2023/04/12
裁判官の判決決定に至るプロセスにおいて、検察側から提示された証拠が、もっとも重要な判断の根拠になる。
しかし、その証拠が捜査官によって隠蔽されたり、偽造されていたとしたならどうだろうか。重大なルール違反だ。まして、それが死刑判決を導きだした凶悪犯罪だったとしたなら、その偽造は殺人罪に相当する。
袴田事件の再審請求の審理では、静岡地裁、東京高裁ともに「証拠の捏造」を指摘している。
検事側はさすがに「特別抗告」を断念したので、再審開始、無罪判決は決定的になった。それでも、再審開始の法廷で検事は、また「死刑」を求めるのだろうか。
いままでの「しきたり」ではそうされてきた。わたしも高松地裁で「財田川事件」再審法廷の初日を傍聴していて、検事が告げる、空虚な「死刑」求刑の声を聞いた。
まもなく再審裁判がはじまり、無罪判決がでるのは時間の問題だ。袴田さんは87 歳、無実の罪で1966年に逮捕され、47 年7カ月拘置されていた。死刑確定は人間性の否定だった。そして、袴田巌さんの意識は、肉体から乖離するようになった。残酷である。
次は狭山事件の再審開始だ。その運動にいっそうの力を入れる必要がある。先日、他界した大江健三郎さんは『小説の方法』(岩波現代新書、1978年刊)で、唯一の証拠というべき「脅迫状」が、「かれ( 真犯人)が隠匿し抹消しようとした彼自身を表現してしまう」との、文体論によって石川さんの無実を証明している。
大江さんは国語学者の大野晋さんが、脅迫状の「漢字使用の不自然さ」、その「作為」が逆に犯人の学力の高さを顕在化させている、との指摘を支持し、高く評価している。石川さんは、その当時、ひら仮名をようやく書ける程度の識字力しかなかった。
「さようなら原発」運動のなかで大江さんは、『小説の方法』の扉に、「御夫妻の御健在のうちに再審の光が大きく輝くことをねがっています 二○一一年十月二日」と書きつけ、石川一雄さんに渡してください、と拙宅に送ってきた。
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しかし、その証拠が捜査官によって隠蔽されたり、偽造されていたとしたならどうだろうか。重大なルール違反だ。まして、それが死刑判決を導きだした凶悪犯罪だったとしたなら、その偽造は殺人罪に相当する。
袴田事件の再審請求の審理では、静岡地裁、東京高裁ともに「証拠の捏造」を指摘している。
検事側はさすがに「特別抗告」を断念したので、再審開始、無罪判決は決定的になった。それでも、再審開始の法廷で検事は、また「死刑」を求めるのだろうか。
いままでの「しきたり」ではそうされてきた。わたしも高松地裁で「財田川事件」再審法廷の初日を傍聴していて、検事が告げる、空虚な「死刑」求刑の声を聞いた。
まもなく再審裁判がはじまり、無罪判決がでるのは時間の問題だ。袴田さんは87 歳、無実の罪で1966年に逮捕され、47 年7カ月拘置されていた。死刑確定は人間性の否定だった。そして、袴田巌さんの意識は、肉体から乖離するようになった。残酷である。
次は狭山事件の再審開始だ。その運動にいっそうの力を入れる必要がある。先日、他界した大江健三郎さんは『小説の方法』(岩波現代新書、1978年刊)で、唯一の証拠というべき「脅迫状」が、「かれ( 真犯人)が隠匿し抹消しようとした彼自身を表現してしまう」との、文体論によって石川さんの無実を証明している。
大江さんは国語学者の大野晋さんが、脅迫状の「漢字使用の不自然さ」、その「作為」が逆に犯人の学力の高さを顕在化させている、との指摘を支持し、高く評価している。石川さんは、その当時、ひら仮名をようやく書ける程度の識字力しかなかった。
「さようなら原発」運動のなかで大江さんは、『小説の方法』の扉に、「御夫妻の御健在のうちに再審の光が大きく輝くことをねがっています 二○一一年十月二日」と書きつけ、石川一雄さんに渡してください、と拙宅に送ってきた。