鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

川柳の闘い第31回

2020/11/17
 『救援川柳句集』が送られてきた。編者の乱鬼龍さんからだ。彼は69歳だが、豆タンクのように頑健で、脱原発のさまざまな集会に、ご自分の川柳を書いたむしろ旗を掲げて参加する。鶴彬を尊敬する現代の川柳作家である。

 鶴彬は、1938年に29歳で赤痢に罹患して病死したが日本の侵略戦争を徹底的に批判していた。

手と足をもいだ丸太にしてかえし
万歳とあげて行った手を大陸において来た

 などでよく知られている反戦川柳作家である。

銃剣で奪った美田の移民村

 つぎの句などは、極めて映像的だ。

高梁(コーリャン)の実りヘ戦車と靴の鋲

 ロングショットからクローズアップに切り替える、鮮烈な映像で日本軍の侵略を告発している。反戦川柳といえば、渡邊白泉の下の句もよく知られている。

戦争が廊下の奥に立ってゐた

 川柳の訴求力は鋭い。アジテーショ性が強烈だ。だから、官憲から弾圧された。

 安保法制など安倍政権の戦争政策に反対した学者6人を、日本学術会議会員任命を拒否した菅政権の弾圧は治安維持法時代への復帰だ。

 さて『救援川柳句集』の紹介。獄中者の「救援連絡センター」の機関紙『救援』に、この10年間に掲載された川柳が出版された。500円。


鉄格子無くとも逃げぬシャバ地獄(星の砂時計)

 獄中も不自由だが、獄外も不自由。「格子なき牢獄」。もっと自由に生きよ、とシャバにいる人間が発破を掛けられている。

万感の獄衣をぬぐや春の門(とり天)春になった。衣替え。
拘置所の中で育った底力(白壁の理不尽大王)

 獄中の逆境で人間性と精神力を高めている。作者は政治犯なのだろうか。

説明も抗弁とされ懲罰へ(沖縄のテロリスト)
三密の監獄でつくる防護服(岐阜の無境界人)

 ご苦労様。