鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

暗黒政治への突進第33回

2020/12/01
 就任早々、いきなり学術会議の弾圧からはじめた菅首相に、どんな成算があってのことか。

 いわば6人の学者の首級を掲げての血腥(ちなまぐさ)い門出になった。それが安倍政権に忠誠を誓った悪政の仕上げだったのか、それともすでに官僚たちの生殺与奪権を握っていた、菅のフライングだったのか。

 この蛮行が内閣情報調査室長から内閣人事局長、官房副長官として菅官房長官を支えてきた、杉田和博氏の差し金だったことは、すでに明らかになっている。

 戦前の治安弾圧の経験から、政治からの自立と自律をモットーとしてきた日本学術会議の組織にまで踏み込むのは、それなりの覚悟が必要だったはずだ。

 が、菅は国会での野党の追及には、まったく対応せず「お答えは差し控える」との逃げの一手に終始している。ことは学問、思想表現の自由。日本国憲法の根幹である、平和主義を形成する根本精神への攻撃である。

 10月末現在で、すでに650団体から、任命拒否への反対声明があがっている。それでも強行突破、いまでは公然と組織改編にまで言及している。

 総合的、俯瞰的、バランス、多様性などと、官僚が差し出す答弁用のメモを読み上げての応戦だが、そのような客観的視点があるのなら、もっとも野蛮な思想弾圧の強行はなかったはず。

 日米同盟強化、集団的自衛権行使容認、敵基地攻撃能力保持、安倍政治が押し進めた軍事化の延長線上にたちあらわれた、菅政権の露骨な学者パージだ。

 菅首相はこの蛮行を日本学術会議改変問題にすり替えて頬かむり、世論の分断を謀って既成事実化しようとしている。

 マスコミでも、産経新聞など右派グループからの攻撃がさらに激しくなりそうだ。新聞、TV、インターネット通信が狙われている。社会から批判的な言動がなくなる。それが戦争の歯止めの崩壊だ。