鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

再審法の署名運動開始  第280回

2026/03/18
  やってもいない犯罪事件の犯人にされる。そんなことなど自分の人生にとってはあり得ない、とほとんどの人は考えている。たいがいの人は不当逮捕などには無関心だ。たとえ、まちがって逮捕されたにしても、その場にいなかった、との不在証明( アリバイ)ができる、という自信がある。 

  ところが、1カ月前、あるいは2カ月前、何をしていたか、手帳がなければ思い出すことはできないが、手帳など逮捕時には押収されて手て許も とにない。誤認逮捕の恐ろしさは、いったん逮捕されると、帰してくれない。職場にも行けない。だから、選挙違反などの軽い罪なら、認めれば帰す、と言われて迎合的に認めてしまう。 

  冤罪だ、と言われても人々が無関心なのは、逮捕当時、犯人として大々的に、憎しみを込めてマスコミで報道された余波だ。どうせ悪い奴に決まっている。そうでなければ逮捕などされないと思う。 

  不良少年だったとか、在日朝鮮人、「ボクサー崩れ」(袴田巌さん)、被差別部落出身(石川一雄さん)、あるいはハンセン病患者(菊池事件)などと差別された人々が一挙に憎悪の対象になる。警察も差別されている地域や人々を最初の捜査対象にする。刑事ばかりか、検事も裁判官にも差別意識が強い。 

  だから、冤罪は差別意識による、といってもいい。冤罪で苦しんでいる人の声を素直に聞くには、冤罪者を差別せず、人間的な関心を深めることが必要だ。 

  やり直し裁判(再審)が、ラクダが針の穴を通るほど難しい、「開かずの扉」とも言われている。これは、警察、検察、裁判所など、行政、司法などの権力機関が、誤りを正したくないことによる。裁判所がようやく、先輩の判事が誤っていた事実を認めて、再審を決定しても検事が闇雲に抵抗する。民主主義の敵だ。 

  再審法改正の運動が拡がってきた。860の地方議会の決議が進んでいる。 

  高村薫、桐野夏生、落合恵子、平野啓一郎、鴨志田祐美、村山浩昭、井戸謙一、袴田ひで子、鎌田などによる「無実の人を救おう!連絡会」の署名運動が始まった。