今週の新社会

先手でコロナ禍に備える
東京・世田谷区長 保坂展人

2022/02/16
保坂展人区長が記者会見(2月3日)

PCR検査の特別車の前で会見する保坂区長(2月4日)


 
新型コロナウイルスの感染拡大、政府の失策が続く中、東京都世田谷区の保坂展人区長は、2020年にいち早く「社会的検査」を開始した。昨年の10月以降、区独自の酸素ステーションの設営、学校、幼稚園、保育園や高齢者施設に抗原検査キットを大量配布するなど、区独自のコロナ対策をしてきた。そこで保坂展人区長に投稿をお願いした。

    1月に入って、オミクロン株が猛威をふるっている。急激な感染者増加に、PCR検査も、抗原検査キットも決定的に足りない。学校や幼稚園、保育園で感染が広がり、濃厚接触者として待機期間に入る人や学級閉鎖・休園が相次ぐことで、医療現場を始め、子どもを抱えて出勤が出来ない人が増えている。 

    子どもから若い世代には重症化ケースは少ないが、家庭内感染を通して高齢者の罹患が増えていることも心配だ。岸田文雄首相は「3回目接種を全力で」と、自衛隊の大規模接種センターを再開して、全国の自治体に早期接種を訴えているが、ブレークスルー感染から高齢者を守るために全力を尽くすことは当然だ。 
   
   OECDの中でも最下位に近く、日本の「3回目接種」の遅れは、10月にスタートした岸田政権が準備を怠り、早期接種を訴える自治体の努力を抑えつけた経過を忘れるわけにはいかない。 

   感染症対策の要諦は、感染減少期に次の流行に備えて感染爆発期には出来ない準備をすることにある。この2年間、散々と痛い経験をしてきたから言わずもがなのことだ。

1000カ所の高齢者施設に検査とワクチン

    2020年夏に、世田谷区は「社会的検査」を打ち出して、高齢者施設に定期的にPCR検査をかけるプロジェクトを稼働させた。従って、2021年のワクチン接種も4月から高齢者施設の訪問接種から開始した。世界各国でクラスター化し、重症化して多くの死者を出してきたのは、高齢者施設だったからだ。 

    昨年は、2回接種は1000か所近くあり4カ月かかった。8月のデルタ株の感染爆発前にワクチン接種は終了したために、高齢者施設のクラスターを抑えることが出来た。 

   第5波が去った10月から12月にかけて、この2年間で、もっとも感染者の少ない時期を過ごしていた。私は、今こそ「高齢者施設を先行して3回目接種すべき時」と判断し、厚生労働省に働きかけた。 

   私たちは、クラスターを出さないために高齢者施設の先行接種を準備した。 

   11月下旬から始めて1月下旬までかければ、3回目接種を終えることが出来るという算段だった。すでに、ファイザー社の薬事承認は2回接種以降6カ月以上となっていることから、5月に2回目を終えた施設から巡回出来ると考えていた。

   検査と治療、行動抑制に的確な体制を 

   ところが、厚生労働省は第3回接種を「高齢者施設等でクラスターが出た時」のみ「例外」というトンチンカンな見解を公表し「8カ月が原則で、6カ月は例外」として、先行接種を認めない姿勢を示したのだ。まさに「自治体の勝手にはやらせない」と厚生労働省は遮断機を降ろして進路をふさいだ。 

   12月になって、岸田首相が「前倒し」を表明してから、この愚かな方針は覆るが、貴重な「1カ月」を無為に失ってしまったのは悔やまれる。世田谷区が高齢者施設の訪問接種を始めたのは、12月23日になってからだった。 

   世田谷区では、10月以降に区独自の酸素ステーションを設営し、学校・幼稚園・保育園や高齢者施設に抗原検査キットを大量に配布してきた。 

   検査がいつでも可能な環境を整え、次の波に備えてきたのだ。2月に入り従来までのPCR検査会場に加えて臨時特設会場をスタートさせた。 

   感染症対策の原則に立って、検査と治療、行動抑制を的確に指示出来る体制を築いていきたい。