鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

朝鮮人徴兵制度の実態(上)  第89回

2022/02/16
  政府は新潟県佐渡島の金山遺跡を、ユネスコの世界文化遺産に推薦した。 相川地区の鶴子金山が左右まっぷたつに割れているのは、金銀をもとめてひたすら掘り進んだ、人間の欲望の軌跡を示している奇観である。 

  「佐渡の金山この世の地獄、登る梯子はみな剣つるぎ」と地底の湧き水を、桶で担ぎ上げる「水替人足」の重労働が唄われている。江戸から無宿人( 浮浪者)や罪人が連行されてきた地獄だった。 

  戦時中は朝鮮半島からの労働者が大量に強制労働させられていた。それを隠してのユネスコへの推薦で、韓国側からの批判は根強い。 

  長崎県の炭鉱の島・軍艦島での強制連行、強制労働を国際的に隠しての登録につぐ卑劣である。 

  岸田首相は見送りを検討していた。が、安倍元首相など右派の圧力に屈した。「聞く耳」首相特有の、妥協政治の産物である。 

  いまでも坑内には労働している人形がいくつも展示している。だから、キチンと説明して、かつての強制労働の犯罪性を記録する施設にすればいいだけだ。アウシュビッツのように。 

  かつて人間の尊厳を奪った行為は、これからしない、という誓いを示す。過去と向き合わない姿勢は、その犯罪性を認めない行為である。 

  戦時中、国内の鉱山、工場、鉄道、道路建設などに、大勢の朝鮮人労働者が使役されていた。それは日本の恥部であり、その事実を忘れさせようとする日本の政策を、韓国が批判するのは当然だ。 

  しかし、朝鮮人の強制労働は、「朝鮮人徴兵制度」によって補強されていた。この驚くべき事実を詳述しているのが、塚崎昌之「武器を与えられなかった『兵士』たち」というタイトルの論文である(「わだつみのこえ」153号)。 

  1944年、朝鮮人「徴兵」制度がはじまるとき、つぎのような意見が軍部にあった。 

  「大和民族のみが戦死し、朝鮮民族が残るときは、その旺盛なる繁殖力と相あい俟まって、将来由々しき問題を引き起こすべし。すべからく朝鮮民族の中からもこの際戦死者を出さざるべからず」 (続く)