鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

朝鮮人徴兵制度の実態(中)  第90回

2022/02/23
  政府が佐渡金山遺跡を、ユネスコ世界文化遺産登録に推薦した。韓国側がかつての「強制労働」の被害を指摘、撤回を要請していた。が、岸田政権は押し切った。戦時中の強制労働、という加害の事実をキチンと反省しつつ、韓国側の納得をえて「文化遺産」に推薦すればいいことだ。

  わたしは30年前、この鉱山がまだ稼働中に取材にいき、朝鮮人労働者の死者が発生していたことを書いていた。しかし、それ以上の追跡をしていたわけではなかった。 

  戦時中の炭坑労働に朝鮮人が大量に動員されていたのは、いわば「周知の事実」だったし、下北半島の鉄道敷設を担った輸送船沈没の悲劇や秋田の花岡鉱山事件( 中国人の暴動、虐殺)などの悲惨とひとくくりに考えていた。 と、「関西わだつみ会」の機関紙「海」に、「わだつみのこえ」153号の論ろんこう攷「朝鮮人徴兵制度の実態」(筆者・塚崎昌之)が紹介されているのを読んだ。さっそく、同会事務局長の永島昇さんにそのコピーを送って頂き、紹介したのが前回のコラムだった。論文のタイトルは「武器を与えられなかった『兵士』たち」。 

  植民地朝鮮の住民を兵士に仕立て、戦場に送った事実はよく知られている。が、「徴用」を拡大するために「徴兵」し、労働現場に派遣していた事実には無知だったので驚いた。 

  日本語のできない朝鮮人を前線で「兵士」として使いこなせるかどうか、陸軍省兵務局では、軍事的要請よりも「徴兵制実施は挙国一致体制を強化する政治的な意義は極めて大きい」との議論もあった、という。 

  サイパン島が陥落し、フィリピンでも敗退、いよいよ「本土決戦」が焦眉の課題となり、その準備が必然となった。本土の各司令部での地下壕や防衛施設建設が急がれ、食糧増産、軍需品の集積などのために膨大な労働力が必要になっていた。 

  徴用労働者の逃亡よりも、兵士の逃亡の方が処刑もふくめて軍律が厳しい。補充兵が労働力として重労働を課せられて日本に送り込まれるようになった。そのどっちにしても、わたしたち植民者の罪は大きい。