鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

神宮の森が泣いている  第92回

2022/03/09
  小池都政が神宮の森破壊計画を決定した。東京百年の大計を誤る。中止させるしかない。神宮の森の樹木1000本を伐採して、高さおよそ二百㍍のオフィスビルを二本、さらに周辺に80、60、55、40㍍など建造物を配置する。 

  この環境大破壊計画を二月上旬「都市計画審議会」が可決、承認した。不動産業の欲望の前に歴史的景観を投げだした驚くべき暴挙だ。 

  神宮外苑は、東京湾からの風を日比谷公園、皇居、御所、新宿御苑、代々木公園と拡がっている都心の緑地帯へ、とつたえ、野放図にコンクリート化された街並に、辛うじて緑と潤いをもたらしている。 

  東京の街にはまだ上野公園や芝公園もあって、大阪の街にくらべても落ち着きをたもっているのは、辛うじて残ったこの貴重な自然環境に、歴代の都知事が手をつけようとしなかったからだ。 

  しかし、いま東京五輪の余勢を駆って、その中心を形成している神宮の森を剥ぎ取り、天を衝つくコンクリートの塔を並べようとしている。たとえていえば、ニューヨークのセントラルパークに、エンパイアステートビルをぶっ建てる不動産業の挑戦、というべきか。 

  地方の工業開発に行き詰った、「新しい資本主義」の醜い欲望の表現だ。 

  都市の美観がどうなっても、儲ければそれでよし。わが亡き後に洪水よきたれ! 神宮の森破壊集団の構成員は、これまで茨城県で鹿島臨海工業開発、青森県でむつ小川原巨大開発(これは大失敗だった)の買収工作を担った三井不動産。それに商社の伊藤忠商事、神宮外苑、日本スポーツ振興センターなど。 

  都心最後の大開発地域は、新宿、渋谷、港3区にわたる66㌶。樹齢100年の広葉樹も多くふくまれている。温暖化促進のむちゃくちゃ計画だ。 

  東京五輪を名目に、建築制限の規制緩和が行われた。都営住宅の住民を追い払ったあとにホテルやオフイスビルを建造する。公共性豊かな土地を破壊し、欲望を爆発させる暴力的開発といえる。 

  環境破壊の暴挙への抗議行動が、これからはじまる。