鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

経営者の心胆寒からしむ  第109回

2022/07/27
  最高裁が福島原発事故の損害賠償請求訴訟で、国を免責した先月中旬の最低判決を、この欄で批判したばかりだった。 それから1カ月の7月13日、東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は東電の元会長、元社長など大事故責任者4人の幹部に、あわせて13兆円を支払うように命じた。

  事故から11年たって、ようやく「まっとうな判決」がだされた、と原告や被害者は法廷内で拍手喝采。やみくもな、無責任な、原発推進勢力がようやく罰せられる。 

  2002年に政府の「地震調査研究推進本部」が、「地震予測長期評価」で、福島県沖でマグニチュード8クラスの津波地震が発生する可能性がある、と公表していた。これにもとづいて、東電の子会社が、最大15・7メートルの津波が来る可能性がある、と試算した。 

  しかし、その試算を受けながらも、被告の勝俣恒久会長、清水正孝社長、武黒一郎副社長、武藤栄副社長(いずれも当時)は、黙殺した。これら事実は、業務上過失致死傷罪で訴えられた刑事裁判でも、明らかにされていた。が、東京地裁は、「合理的な疑いが残る」と却下。無罪にした。 

  今回の東京地裁判決は、「( 原発事故は)生命や身体、財産上の甚大な被害を及ぼし、地域の社会的、経済的コミュニティの喪失を生じさせ、わが国そのものの崩壊にもつながりかねない」と指摘して、こういう。 

  「ほぼ一貫して規制当局に、自ら得ている情報を明らかにすることなく、いかにできるだけ現状維持できるか、そのために有識者の意見のうち都合のよい部分を利用し、都合の悪い部分を無視したり、顕在化しないようにしたりすることに腐心してきたことが浮き彫りになった」 

  もっとも危険な原発を扱っているのに、まったく非科学的、ご都合主義で経営してきた。今回の判決は、責任感がまったくなくなった経営者への一罰百戒。賠償金13兆円。東電ばかりか、ほかの電力経営者の心胆を震いあがらせた。 

  人間と原発は、相容れない関係にある。それでも強行するなら、その覚悟が問われている。