鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

交通難民を救え  第126回

2022/12/07
  国土交通省は地域再編に取り組む自治体にたいして、これからインフラ整備などの交付金をだすという。11月18日、同省の諮問機関「交通政策審議会」で、ローカル線の支援策を決めた。2023年度の当初予算案に盛り込むそうだ。が、遅きに失した。

  ローカル線とその沿線に住む住民を切り捨てたのは、11月23日付の、この欄で書いたように、中曽根元首相による「国鉄分割・民営化」だった。ローカル線を切り捨てたばかりか、国労・社会党潰しを狙った大攻勢だった。 

  それから35年がたって、こんどは政府が自治体が負担するローカル線の経費を支援するという。 

  都市交通は私鉄各社の乗り入れなどによって、ドル箱路線がふえている。が、その一方で地方交通は切り捨てられ、衰退、消滅の加速を余儀なくされてきた。 

  11月19日、福島市で発生した、97歳の独居老人による死傷事故は、あまりにも悲惨だ。高齢者の「免許返納運動」に結びつけられているが、97歳でもクルマを運転しなければならない、社会環境こそが問題なのだ。 
 
  これはひとつの典型的な例だが、実際の犯人は、地方交通を潰してきた国の政策、あるいは社会的責任を全うしない鉄道業者・バス事業者。その利益追求政策ともいえる。 

  マイカーでしか、社会的なつながりをもてない地域がふえている。その対極にリニアモーター新幹線の思想がある。航空機と争うほどのスピードを追求するビジネス列車の建設は、あまりにも犠牲が大きすぎる。 

  新幹線や都市部の路線はドル箱。ローカル線は赤字。国交省鉄道局幹部は「JRにやる気がなく、減便と投資の抑制で廃線同然になっている不幸な路線もある」と指摘している(「毎日新聞」11月8日)。いまさらながらの国交省幹部発言だが、廃線は地域の空白地帯を確実にふやし、人間のつながりを断ち切る。 

  中曽根元首相の乱暴な勲一等・「国鉄解体」をわたしは、「国鉄処分」(岩波現代文庫)として書いてきた。政府には住民の生活と安全を守る責任がある。陰謀ともいうべき「処分」の責任をとれ。