鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

水に流す思想(下)  第134回

2023/02/08
      部厚いコンクリートに覆われた原子炉建て屋が、1号機、3号機、4号機と横並びに連続水素爆発した。福島第一原発構内で無惨な残骸を眼前にして、恐怖の感情よりも、哀れを感じさせられた、と前回書いた。

      恐怖の存在にかわりはない。「近代科学の粋」などと言いふらされたが、すでに決着はついた。原発は敗戦処理の時期にはいった。失敗だったのだ。それでも、岸田首相のように、まったく無責任に突進、玉砕を叫ぶ時代錯誤の徒が、大手を振っている。

    爆発によってまき散らされた、膨大な放射能に汚染された表土は剥がされ、黒いフレコンバッグに詰められ、双葉町、大熊町の立地町ばかりか、隣接する浪江町、富岡町などの田畑を埋め尽くした。

      久しぶりにきてみると、黒いフレコンバッグはまだあちこちに残っているのだが、およそ30万個という汚染土壌は、膨大な数のダンプカーやベルトコンベアで運ばれ、処理場で分別され、また運ばれ、こんどは高さ15㍍に積み上げられ、あちこちに茶色い台地がつくりだされていた。「土壌貯蔵施設」である。 2045年までに県外へ運びだす、というのだが、果たしてどうか。「除染土」として、新宿御苑に運んで再利用する、というのが、「汚染土」改め「除染土」のデモンストレーションのひとつだ。安全宣伝である。 

      一方の「汚染水」は「処理水」として海洋放出する。「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」、それが政府・東電と福島漁協との協定だ。しかし、岸田内閣は「今春から夏ごろ」といいだした。全漁連も反対。福島の漁業だけの問題ではないからだ。太平洋全域にも影響する。

  「水に流す」は、「許し合う」関係のようにみえるが、加害者が一方的に被害者に押しつける解決策である。汚染された水と汚染された土を「放流」、「再利用」する、それが放射能汚染の「浄化」と「復興」策だ。 

      汚染物を環境に出さない、が水俣病などの公害に苦しんだ日本の教訓だった。原発、この巨大な環境破壊装置を、岸田首相はもっと造れ、と命令している。