鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

青白い閃光の毒物テルル    第141回

2023/04/05
     「福島原発事故4日後の15日、飯舘村では朝の雨が雪になった。その雪に黒い物が混じって降ってきた。金属の焼けるような臭いがして、周りの空気が赤錆色に見え、肌がピリピリ痛み始めた」。 

      テルルが酸化してできる二酸化テルルの青い色やセシゥムが酸化してできる赤銅色などが混合して、赤錆色に見えたと想定できる、と京都精華大学の山田国廣教授が書いている(『核分裂 毒物テルルの発見』(藤原書店)。

    ヒロシマやナガサキの記録でも、青色、青い炎、青白光線などと記録されている。ピカドンの「ドン」は爆風に吹き飛ばされた建物の倒壊の表現だが、「ピカ」の青い閃光は「チェレンコ光」とされてきたが、この山田教授の著書では、テルルが空気中で酸化した時に、青い光を出す、という。

   「テルル」とはなにか。わたしたちはウラン、プルトニウム、セシウムなど人体に悪影響をおよぼす放射性物質の名前はよく知っているが、テルルについてはほとんど知らない。この著書には、青酸カリ、シアン化物などよりも猛毒が、原発の使用済み核燃料にふくまれている、と書かれている。

    原爆の被害は熱線、爆風、放射能のほかに、「放射性毒ガス」がある。「原爆症研究の父」都筑正男東京帝大教授は、被爆者の症状からそれを突き止め、パンフレットにして、30部ほど各地に配った。

   しかし、マッカーサー司令部がそれをキャッチして回収、「放射性毒ガス」の文字を削除させ、大学から追放させた(のちに復帰)。

    『核分裂』は、事故直後の2号機の周りを、灰色と薄い青の汚染霧が取り巻いている写真が掲載されている。この霧は短時間で、日焼けのように皮膚を刺激する。「毒物テルルが原子炉内に大量堆積していることは、原発推進の専門家では常識でした」。核分裂によって毒物テルルが形成されるのは常識だったのだ。 

      原発事故は外部被曝ばかりか内部被曝の影響をもたらす。長い間地中に眠っていた猛毒テルルは、原子力利用として掘り起こされ、半導体生産などに再利用されようとしている。