鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

原子炉 足許の虚無   第143回

2023/04/19
  大江健三郎さんと坂本龍一さん。この国際的な知識人は、「さようなら原発運動」の呼びかけ人でもあり、反原発運動にとっての重要人物だった。そのおふたりが踵を接するように、相前後して他界した。予想はしていたとはいえ、いま言葉はない。

  福島事故の1年半後、2012年7月、代々木公園で開催した「さようなら原発全国集会」は17万人の人たちが集まったが、大江さん、坂本さん、瀬戸内寂聴さん、内橋克人さんが演壇に立った。

  いまは亡き人たちである。このとき発言して、まだ健在なのは落合恵子さん、画家の奈良美智さんと私だけである。大事故から12年がたった。事故は原発の危険性の実証であり、政府は原発縮小を目指す、としてきた。

  ところが安倍自公政権になると、それを黙殺、いまや岸田無責任政権は、「GX」(グリーン・トランスフォメーション)、エネルギー政策の「転換」などといって、原発への「回帰」を図っている。破廉恥な暴走というしかない。原発の新増設など、天に唾するアホ、と言うべきか。

  ここにきて、東電が発表した写真が話題を呼んでいる。福島原発一号機の原子炉圧力容器。その土台部分内部の写真だ。これまでも、圧力容器を支える筒状の土台(ペデスタル、直径6㍍、壁の厚さ1・2㍍)の外壁が一部、崩壊していることは確認されていた。こんどはペデスタル内部に水中ロボットを投入して撮影した。

  その結果、溶け落ちた核燃料デブリによって、壁面が広範囲に損傷、鉄筋が露呈していることが判った。原子力規制委員会でさえ、「耐震性が心配だ」という。

  強度の地震が再来すると、440㌧の重量がある圧力容器が倒壊するかもしれない。危険な原発の足許は、いま極めて脆弱な状況にあることがわかったのだ。

  朝日川柳の一句。 

  十二年かけて写真が撮れただけ

  神奈川県 石井彰 

  事故から12年たっても、なお手がつけられない。危険はますます強まっている。大江さん、坂本さんの遺志を継いで、脱原発の運動をさらにひろめよう。