鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

一人でも闘う(下)  第149回

2023/06/07
 「防衛費増額」の特別措置法案が衆院を通過。「防衛産業強化法案」も衆院通過。岸田内閣の「戦争する国づくり」、軍拡政策が着々と進められている。 

  一方では、「土地規制法」によって、軍事基地と原発地域周辺の「注視」(監視)が強化されようとしている。昨年12月には米軍と自衛隊の円滑な活動のための「国家安全保障戦略」が、閣議決定された。 

  岸田首相の米政府と自民党タカ派(安倍派)への見境のない迎合、無節操はいまや、ロシア・ウクライナ戦争と「台湾有事」脅しを背景に、米国の戦争に加担しそうだ。柔らかな軍国主義、というべきか。 

  前回、この欄で戦争の悲惨を無数の陶板に刻んだ、栃木県益子町の美術館「朝露館」を紹介した。強制連行して重労働を押しつけた中国人を虐待、虐殺した。その名前を刻んだ陶製の名札、死者に履かせた黒い布製の靴。館内の数えきれないほどの制作に祈りがこもっている。それは侵略した日本人の加害への謝罪だ。 

 「朝露館たより」に「『少国民』は簡単につくられる」を寄稿している元小学校教員の根津公子さんは、教育現場への「日の丸・君が代」の強制に反対し、処分を受けながらも定年まで、ひとりになっても闘い続けた。教育委員会ばかりか、生徒からも「非国民」扱いされ、「学校はルールを教えるところ。ルールを守れないなら教員辞めろ」と攻撃され続けていた。 

 「大人が、とりわけ教員が政治的・社会的問題について、意識して生徒たちに語り問いかけていくことの大切さを思いました。朝露館は、加害の事実を伝え、考えさせてくれる場です…加害の事実を知れば、子どもたちは考え、何らかの行動をしていきます」 

 被害史観だけでは戦争への接近と闘えない。日本はどれほどアジアの人たちを苦しめたか、新しい戦争はそれをまた繰り返すことになる。その反省と虞(おそれ)が強ければ、戦争への道を塞( ふさ)ぐことができる。

 「少国民」。少年時代からの「愛国心」(唯我独尊)教育が、軍国少年をつくったのだ。