鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

続・一人でも闘う(上)  第151回

2023/06/21
  「慎重に」とか「丁寧に」とか。「異次元」の腰の低さを演技しながら、ペロリと舌をだす強権。自民党右派をバックにした岸田政権の横暴はますます亢進、歯止めがかからない。「世界の恥」ともいうべき「入管法改悪案」に、自公ばかりか、野党の維新、国民も加担、採決を強行した。 

  懐にとび込んできた「窮鳥」を追い払う冷酷さ。難民排除は「愛国」を標榜して、いのちのギリギリのところにいる外国人を見捨てる仕打ちなのだ。 「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しよう」( 日本国憲法・前文)という、国際社会の理想をかなぐり捨てる暴挙と言える。 

  さらに、防衛産業強化法を成立させた。「死の商人国家への堕落だ」と国会で参考人に批判され、自民、維新の議員たちが激高した。他人の命をカネに換える商売を死の商人というのは、正解だ。 

  窮乏している人間のいのちを救うのが政府の仕事であって、政府機関が窮民を排除するのは誤りである。明治以来のハンセン病差別である「らい予防法」を、憲法違反として廃止させた国賠訴訟が、勝利した(2001年)。そのあとも、差別が強い現実と闘った「多磨全生園医療過誤訴訟」。これは、山下ミサ子さんの「たったひとりの闘い」。 

  89年間も放置されたままだった「らい予防法」をごく少数の元患者さんたちが立ち上がり、そのあと、辛酸を舐なめた家族も補償させた(2019年)。その間にあったのが、「医療過誤訴訟」だった。 

  その記録が5月に出版された(『告発 ハンセン病医療︱多磨全生園医療過誤訴訟の記録︱』(編者 村上絢子、内藤雅義、並里まさ子、和泉眞蔵)である。 「国賠訴訟勝利」と「家族訴訟」勝利から20年がたった。 

  「家族は申請すれば補償金が支給されるにもかかわらず、対象者の約3割しか申請していません。ハンセン病の家族だと知られて、新たな差別を受けることを恐れているのです。被害当事者は、長い人生の中で、偏見差別や迫害によって傷ついた心を抱えながら今も生きているのです」(村上絢子)。