鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

欺瞞の核汚染水放出作戦  第153回

2023/07/05
  福島第一原発の構内に林立している、核汚染水を抱えこんだ巨大なタンクの大群は、脇の通路を通り抜けるだけでも不気味だ。破けたらどうなるか、と恐怖にかられる。 

  そこに溜まった核汚染水から放射性核物質を「多核種除装置」(アルプス)で取除いた「処理水」として、この夏から30年間、太平洋に放出しようとしている。東京電力と岸田内閣の野望だ。 

  だが、なかにはまだトリチウムがふくまれている。トリチウムは国の基準の40分の1まで希釈するから、と安全性を強調している。しかし、太平洋の島々18カ所や中国、ロシア、ドイツなどは反対している。 

  日本の漁業団体ばかりか、海に面した国が反対しているのは、環境汚染による生命と健康を心配しているからだ。新聞などは「汚染水」と書き、核物質を処理した「処理水」と表現している。が、「放射性汚染水」とは書いていない。処理水といってしまえばまるで水道水のようなイメージになる。基準の40分の1といえば、まったく無難と思わされる。 

  が、放流による解決策はタンクの貯蔵キャパシティが量的な限界にきたからであって、安全だからではない。

  「害毒は工場の外にださない」、とは、水俣病など公害問題に苦しんだ日本の鉄則であり、「汚染者負担の原則」である。 

  ところが東電はタンクの保有能力が、137万トンの限界になった。だから放出する、という。137万㌧からはじまる放出を30年以上環境に放流する。除去しきれなかった放射性物質は、これから、環境にどのような悪影響をもたらすことになるのか。 

  ところがいま、実際には、放射性汚染水の発生量が減っている。2023年ごろが限界、満杯になるとの予想が、いまは24年2月から6月頃、とされている。当事者・東電が主張する緊急性がなくなったのだ。 

  だから、その間にタンクを大型化するとか、新たな設置場所を探すとか、解決策はある。が、東電と政府はすでに放出の設備建設が完了した、と既成事実で押し切る作戦のようだ。すべて安上がりのためだ。