鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

核汚染水を海に捨てるな  第160回

2023/08/23
  政府は8月末にも、福島原発の核汚染水の海洋放出をはじめる、との調整にはいった、と各紙が報じている。   

  岸田首相は米国で行われた日米韓首脳会談に出席する前に米・韓に「丁寧に説明する」と語っていた。しかし、放流は米韓だけに影響を与えるものではなく、むしろ南太平洋諸島へのほうが深刻なはずだ。 

  「アンダーコントロール」は、オリンピック開会式で脚光を浴びたい安倍元首相の欲望による、大ウソだった。デブリ(溶けた核燃料)ばかりか、核汚染水さえコントロールできず、それもこれから30年以上も垂れ流し状態になる。日本が世界の環境に影響を与え、きわめて責任は大きい。 

  汚染水ではない。ALPS(多核種除去装置)で処理済みの「処理水」だ、とは詭弁である。処理後に残されたトリチウムは海水で薄め、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1に抑える、とは、政府と東電の弁明である。 

  第一原発の敷地にタンク群が林立している光景は、見学に行ってその間を通り抜けただけでも恐怖感を覚えさせた。タンク内でひっそり沈黙している汚染水が、海をめがけて音をたて、流れて行く光景は想像するだけでも、慄然とさせられる。 

  現在、133万トンのタンク内「処理水」のうち、約7割が浄化不十分で、もう一度の処理が必要とされている。 汚染水の放出は廃炉準備のためというのは口実だ。タンクを解体して敷地を確保し、これからはじまる廃炉設備の設置工事に必要だ、と政府は強調している。 

  が、いつからどのように工事がはじまるのか、その具体性はない。放出しなければ廃炉工事ができない、と脅かすよりも、必要なのは、汚染物は外にださない、とするモラルだ。 

  海はいのちを育んできた。プランクトン、魚卵、海藻海草、貝や虫などのちいさな命。事故がなくとも原発や核燃料再処理工場などは、膨大な量のトリチウムを海へ流してきた。核物質の海への放出によって、原発が維持されてきた。その事実を認めれば、原発の存在自体を認めることができない。