鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

歌を忘れたカナリア(下)  第167回

2023/10/18
  10月にはいって、全米自動車労組(UAW)は、GM(ゼネラル・モーター)とフォードとの同時ストライキで職場の範囲を、さらに拡大して実施した。賃上げなど待遇改善を要求して、ビッグ3の労組は長期ストにはいっている。 

  ストライキ。日本は年に33件(22年)しか実施されていない。もはや死語にちかい。74年には5千件以上もあった。「労使協調」が民間大手労組の常態となっている。というよりも、すでに「労使癒着」ともいえる状況だ。 

  全米自動車労組は民主党支持だが、トランプ前大統領が労働者の街・デトロイト郊外まで足を延ばしたのは、来年11月の大統領選挙にむけて、労組票を奪うためのアッピールだ。それに対抗してバイデン大統領がデトロイトを訪問したのは、「もっとも労組寄り」の大統領として、支持基盤を固めるためだ。 

  一方の日本は、「ストなし春闘」になって久しい。20年以上も、実質賃金があがっていないのは、労組の力が脆弱だからだ。 

  労働組合の組織率は、16・5%。それも連合のなかで電力総連、自動車総連、電機連合、UAゼンセンなどは、野党といえども政権にちかい、国民民主党支持である。鉄鋼、造船、化学など巨大な民間単産も「労使協調」で、ストライキなどから遠く離れている。 

  全米自動車労組のストライキを支持して接近する、前・現米大統領の姿をみれば、フランスやイギリスなど欧州の労組もおなじように、公然とストライキ闘争に起ち上がる、労働者の権利行使と、世論の支持の厚さを理解できる。 

  8月末、そごう・西武労組のストライキが、新鮮でかつ温かい目でみられたのは、抵抗する姿を支持する世論を証明する。それは20年も続く低賃金、労働者の4割を占める非正規労働者の苦況、無給残業。将来の雇用不安。機能しなくなった労組への不満など表現されている。 

  労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権(ストライキ行使権)は、憲法(28条)で認められている。労働者はこの権利を主張できる。それを拡げよう。