鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

原発利益の政治家たち(下)  第179回

2024/01/31
  青木美希さんの『なぜ日本は原発をとめられないのか』を読んではじめて知った。2011年3月の福島原発連続爆発事故のあと、中曽根康弘元首相が、「原子力には人類に害を及ぼす一面がある」。「これからは日本を太陽国家にしたい」と語った(2011年6月26日、「太陽経済かながわ会議」)という。 

  中曽根康弘と言えば、国鉄解体など公営企業の民営化を断行、公労協にも打撃を与え、「公共」を縮小、獰猛な資本主義にむけて采配をふるった政治家だった。 

  前回も書いたが、新人議員のとき米政府に招待されて渡米、すっかり原発信者に洗脳された、危険な「青年将校」だった。それが原発から太陽光へと転換するとは、にわかに信じがたい。 

  核武装論者、原発戦犯とも言える中曽根氏が反省するほど、原発事故の衝撃は大きかった。日本の平和と将来の安定を考えれば、原発地獄から脱却する道筋を探すことこそ、政治家の任務だ。 

  珠洲市には70年代、北陸電力、関西電力、中部電力が共同で100万㌗の原発2基を建設する計画があった。各地の予定地のように、住民を籠ろう絡らくする視察旅行がおこなわれ、すでに買収された土地があった。地震が多発していた半島に原発建設など、電力会社と政治家の横暴だった。 

  いま能登半島は地震で道路が遮断され、孤立化。身動きできない集落が多発している。その報道を目にすると、人間のいのちなど歯牙にもかけない、原発マフィアの暗躍が、いかに日本を危険列島にしたかが判る。 

  原発関連産業が中心の経団連、政治献金を受ける政治家、経産省などの天下り官僚、そして、マスコミにはいった(事故前の10年度、電力10社の)広告・PR費は、866億円。ほかに電事連の広告費が、過去5年平均(当時)で20億円。文化、芸能人はこのカネで原発宣伝に登場した。 

 「原子力ムラの一角だったマスコミにも重い責任がある。長く新聞社にいる一員としても、ここで声をあげることに躊躇してしてはならない」。著者の決意がこの本を書かせた。