鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

ミサイルと石垣島(上)  第195回

2024/05/22
  「戦雲(いくさふむ)がまた湧き出てきたよ。怖くて恐ろしくて眠ろうにも眠れない。ああ憎い、権力者どもよ」 

  沖縄県の先島・石垣島中央。地元の人たちに神聖な山とされている於茂登(おもと)山に暗雲が蟠(わだかま)っている。その雲を背景にしてここに住む山里節子さんの即興の訴え「とぅばらーま」の歌声が流れていく。三上智恵監督の最新ドキュメンタリー作品『戦雲』のファーストシーンである。 

  「この島にミサイル基地をもって来られようとしている。島のどこにもち込まれようと、自分の心臓がえぐられるようだ」と山里さんは歌うようにいう。画像に2016年撮影、と表示される。その少しあと、わたしもミサイル基地予定地周辺をまわっていた。嵩田(たけだ) 、於茂登、開南、川原など4公民館( 自治会)は、中山義孝市長の争点隠し、はぐらかしを批判する集会を開きたい、と言っていた。 

  この時、中山市長は「防衛問題は国の専権事項」として賛否の態度を表明しなかった。与那国島から移住して、マンゴーなどを栽培している金城哲浩さんの反対意見を聞いた。息子の龍太郎さんは於茂登山の麓に広がる田園風景を「変えられたくない」と言った。山とむかいあって、地域全体を見下ろす展望台から、島の左右両側に東シナ海が広がり、田園地帯をのどかに風が渡っていくのが見えた。 

  昔、台湾から渡ってきたパイン農家や嘉手納基地建設によって畑を追われた人たちが開拓した、豊かな農地なのだ。ファーストシーンにアカペラで歌った山里節子さんは、石垣市内に住んで、「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」のメンバーだ。 

  わたしとおなじ歳なのだが、沖縄戦のさなか日本軍によってマラリア猖獗(しょうけつ)の山地に強制疎開させられた。マラリアで、母親と祖父が死亡、長兄は戦死した。 

  この映画で金城龍太郎さんが「石垣市住民投票を求める会」を組織して、圧倒的多数の投票を得たことを知らされた。しかし、防衛省の工作を受けて市議会が無視、自衛隊が駐屯地を建設、ミサイルが到着した。民主主義を踏み潰して戦争がやってくる。