鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

日本産業の黄昏 (たそがれ)   第198回

2024/06/19
  トヨタ、マツダ、ホンダ、スズキ。日本の自動車メーカーの間で、「型式指定」の認証試験をめぐって不正が行われていた事実が明らかになった。「型式指定」は「道路運送車両法」に定められた制度。クルマの生産は大量生産で、一台ずつの検査では対応できない。それで、ブレーキや燃費などの試験は各社で行い、そのデーターを国に提出して、審査される。 

  それに合格すれば同じ形式のクルマは、検査を免除される。メーカーは不正をしないとの信頼関係に基づいた制度だが、メーカーがそれを裏切って、データーを改竄 (かいざん)、捏造 (ねつぞう)していた。重大な法令違反だ。 

  これまでも、同じ不正行為で摘発され、出荷停止などに追い込まれたのは、三菱自動車、日産自動車、スバル、日野自動車、ヤマハ発動機、豊田自動織機などと軒並み、船舶エンジンのIHI原動機などもふくまれている。 

  年間営業利益が5兆4千億円、経団連会長などを務めたトヨタまで「認証不正、出荷停止」と一面トップ記事になった。豊田市のトヨタ本社に国交省の職員が立入検査に乗り込む映像が、テレビでも流された。 

  トヨタ自動車の豊田章男会長は、記者会見で「ブルータス お前もか、という感じ」との心境を吐露した。シェクスピアの「ジュリアス・シーザー」で人口に膾炙 (かいしゃ)したセリフだが、トヨタの場合は、構造的にデーターを偽造していたのだから、ワンマン社長が「飼い犬に手を噛まれた」と認識でいるのは、ゴーマンだ。 

  その産業のトップに君臨する豊田家の盟主は、「何がお客様や日本の自動車産業の競争力につながるのか、制度自体をどうするのかという議論になると良い」と認証制度を問題にしている。こんな法令があるのが問題だ、という逆攻だ。 日本の製品は品質の安定性で世界に波及した。が、いま開発競争によって品質チェックに余裕がなくなった。 社内チェックが不全なのは、社内の民主主義が欠けているからだ。労働組合が内部にいて批判する体制が失われた。それが長年にわたって、会社の姿勢を不健全なものにした。