鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

いま問う国鉄民営化  第203回

2024/07/24
  公共性。最近、影が薄くなった。鉄道、水道、郵便もそうだが、住民の生活をささえていた、地味な思想だった。誰もがその恩恵を受けられた。社会的な存在の意味は大きく、その仕事に従事する人たちは、プライドをもって働いていた。いま、地域の鉄道は衰退が進み、都会でも「緑の窓口」がなくなった。郵便も到着までに時間がかかる。 

  わたしは「国鉄処分」というのだが、これを断行して、死後、「大勲位菊花章頸飾」という大仰な勲章を得たのが、中曽根康弘元首相だった。「国鉄が解体すれば総評も崩壊するということを明確に意識してやった」と豪語していた。 

  国労(国鉄労働組合)は、この国有財産を財界各社に払い下げる「民営化」に、敢然と反対した。労働者の団結権、団体交渉権、ストライキ権を完全に無視して行われた、このクーデタとも言える強権は、「国家的不当労働行為」、「国家的集団虐待」だった。 

  最近発刊された村山良三『JR冥界ドキュメント 国鉄解体の現場・田町電車区運転士の一日』( 梨の木舎)は、JR化に反対して運転台から下ろされた著者が、37年後、幽霊のように出現して書いた、怨念の一書。 

  村山氏は67年、東京・田町電車区で運転士となり、東海道線、横須賀線を運転していた。彼のような。反対派は「要員機動センター」「人材活用センター」などに収容され、迫害され、雑用を押し付けられた。 

  この暴虐に耐えられず、自殺した国労組合員は、150人にのぼる。まるで内戦のようだが、分割・民営化の陣頭指揮をとった、葛西敬之などの3人は、それぞれJR東日本、JR西日本、JR東海の社長に収まった。職場の雰囲気ばかりか人間の表情まで変わった。 

  「同じ職場で働きながら、意思の疎通が意図的に阻害されていて話したくとも話せない。会話ができない。そんな状態の職場を職場と言えるだろうか。そこは職場ではなく、まるで死後の世界だ。私はそこに出勤を余儀なくされている」(「JR冥界ドキュメント」)