鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

学費値上げより予算拡大を  第211回

2024/09/25
  東大の授業料の値上げが話題を呼んでいる。現在の年間53万5800円から11万円ほど引き上げられる。それにたいして、学内外で反対意見が強まっている。

 「東大は関係ない」と言えないのは、その決定にほかの国立大学が追随し、そればかりか、私立大学の授業料まで、値上げされないか、そんな不安が強まっている。 

  教育の機会均等というなら、授業料は安い方がふさわしい。それでなくとも、塾などで子どもにお金がかかるようになった。と言っても、わたしは子どもたちを塾にやらなかった。石頭だったからだが、塾はおカネをかけて抜け駆けする場所、のように考えていた。普通に勉強すればいい、と思っていたのだ。

  昔の東大は家貧しくとも、頭のいい子がはいる大学と思われていた。が、いまは富裕層の大学に変質しているようだ。21年度の東大生の世帯収入は、平均で950万円以上が54%を占める。 

  地方のごく普通の家庭の子どもたちなら、各地の国立大学に入れる。それでも、競争が激しくなった学歴社会では、有名大学に志願者が殺到する。さらに高校も名門校、中学から有名中学を目指すようになった。それが、現在の格差社会を象徴している。

  経済協力開発機構(OECD)の報告書によれば、大学など高等教育機関の資金に占める国家資金などの割合は、加盟国平均で68%に対して、日本は37%とおよそ半分でしかない。ヨーロッパ、とりわけフランスのように、小学校から大学まで無料、それも芸術系も、外国人までふくめて無料、というのが文明国としての理想であろう。 

  貧富の差によって教育環境が異なる、というのは差別構造だ。いま、東大の学内でも「学費値上げ反対」などのプラカードを掲げた「学費値上げ反対緊急アクション」が立ちあがっているという。 

  それは67、68年当時の東大闘争を思わせる、学生自治運動の萌ほう芽が ともいえる。人間教育の基盤でもある授業料を、限りなく無料に近づける。そのための無条件の予算拡大。軍備拡大よりも大きな政府の仕事のはずだ。