鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

許すまじ原爆 第38回

2021/01/19
 夜遅く駅に降り立って自宅へ向かうとき、労働歌を低く歌い、足取りが行進調になったりしていて苦笑いする。「晴れた五月の青空に」のメーデー歌が元気にさせる。

 「身寄りの骨うめし焼け土に、今は白い花が咲く」。「原爆を許すまじ」は、パセティックすぎて、急ぎ足にはむかない。

 この歌をよく思い出すようになったのは、核兵器禁止条約の発効に向けて、世界が動いてきたころからだ。その批准国も50ヵ国を超え、いよいよ22日に発効となる。

 「あらゆる核兵器の使用から生じる壊滅的で非人道的な結末を深く憂慮する」との前文をもつ「核兵器禁止条約」は、核兵器の所有を「抑止力」と噺(うそぶ)く核大国に対して、核兵器をもたない小国が連帯して、核兵器による威嚇や使用を禁じたのだ。

 市民の頭上に二度にわたって、もっとも破壊力の強力な原爆を落とされたにもかかわらず、日本がこの条約を批准しないのは、世界への恥さらしだ。

 広島、長崎の被爆者の永年にわたる悲痛な訴えが、世界に届いてこの条約に結実した。肝心の政府が核大国を誇る米政府に束縛され、背をむけている。

 「核兵器の開発、実験、製造、取得、保有、貯蔵を禁止」とされている条約を認めないのは、日本もまた核兵器の開発、製造に野心をもっているから、と見られても仕方がない。実際、小型核をと言う声は、安倍晋三を含めて何人かの自民党幹部が発言している。

 「原爆を許すまじ」の歌は、「三たび許すまじ原爆を、われらの街に」と謳われているが、原爆を投下されないために何が必要なのか。それはアメリカの核の傘にもぐりこむことではなかった。

 核禁止条約が発効したあと、それを後盾に「核の傘」日米安保条約からの脱却して、ロシアや中国などアジア諸国との平和条約の締結と善隣外交の強化に向かう。そのための新しい政府が必要だ。