鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

トヨタ教 第41回

2021/02/09
 「トヨタ労組『脱ベア』徹底」(「朝日新聞」1月26日)。春闘の出鼻を挫く記事だが、主語はトヨタ労組ではなく、トヨタ資本のはずだ。

 トヨタは労働者一律の定期昇給を廃止して、「定昇ゼロ」の脅しをふくんだ、成果主義一本の「職能給」にする、とかねてから主張していた。それを今春闘にぶつけてきたのだ。

 そして、トヨタ自動車労組(7万人)が、それを丸呑みした。コロナ禍に喘ぐ全国の労働者にとって、「トヨタでさえ」との諦めをつくり出す犯罪的な攻撃だ。

 賃金決定に際して労働者の「成果」にたいする経営者の査定を許したら、労働運動は成立しない。職場の人間関係は分断され、迎合と忖度がはじまり、つまりは組織が腐敗する。

 内閣人事局を牛耳った菅前官房長官が人事権によって、官僚たちの面従腹背、止めどのない頽廃をつくりだした。つまりは組織は腐敗、亡国の政治となった。

 トヨタの頽廃はすでに始まっている。「助けて!豊田章男社長が『教祖』になっちゃった」との見出しを掲げて、『週刊現代』(1月23日号)がトヨタ批判を掲載した。大スポンサーを虚仮(こけ)にするなど、目を疑う記事で、これまでは考えられない快挙だ。

 「CMでは『クルマだけではなく幸せを量産したい』と語りかけ、マスコミを『秘密警察』と非難し、社員には『文字だと頭が痛いから絵で説明しろ』と怒声が響く」4ページ記事の惹句(じゃっく)である。

 拙著『自動車絶望工場』が発行されたのは、1973年だった。それから48年たって、ようやく同志が現れたようなのだ。

 記事は東洋経済新報社が昨年発行した本が、章男社長を神格化していることも揶揄っている。

 売上高30兆円。「絶望工場」をあたかも『幸福量産工場』のように言いくるめる社長を、新興宗教の教祖として批判する週刊誌があらわれたのは、記録に価する。