鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

終わりの始まり 第46回

2021/03/16
 妻にねだられて、小学校の建設用地として国有地を極安で払い下げたり、「腹心の友」に大学創設の便宜を図ったり。前首相が身内に甘かったのは、自民一強、長期政権の奢れるわざだが、それに歯止めをかけられなかった運動の弱さが残念だ。

 泥沼政権の「継承者」を自認する現首相は、総務大臣当時、息子を大臣秘書官に抜擢して箔(はく)をつけさせ、友人の放送関連会社にコネ入社させた。会社は、監督官庁である総務省幹部との接待係にした。その高級官僚のひとりを、内閣広報官に登用したのだから、菅首相、世間を甘く見ていた。

 「一人7万円」。東北新社社長と菅の長男とが総務官僚と同席した高額接待が「週刊文春」で暴露された。そこで浮上したのが、山田真貴子内閣広報官。彼女も総務審議官として接待されていた。国家公務員倫理規程違反ばかりか、贈収賄事件の疑いも濃厚にある。

 このスキャンダルによって、首相の宣伝官としての内閣広報官が、記者たちの前面に立つことができなくなった。それでも菅首相は、甘くみて続投させようとしていたのだから、危機管理意識ゼロ。

 判断ミスが、GoToトラベルの強行など、一連のコロナ対策の失政に上塗りされ、政権崩壊の前奏曲となった。ついこの間の総裁選のころまで、菅官房長官は、「何かやるという方向を決定したのに、反対するのであれば、異動してもらう」と豪語していた。安倍内閣が旗揚げした「内閣人事局」を握って、官僚支配を思いのまま。

 彼が霞が関を忖度と迎合の府にした。その強権支配は、やや大仰に言えば、「粛清」で名を馳せた、スターリン時代のベリヤ内相のような、血も凍る冷酷さとして後世に伝えられるであろう。あるいは強権が身内の便宜に矮小化された時代。自民党政治崩壊の始まり、として。

 さらには沖縄弾圧政権として。対米従属強化の時代として。さらには、官房機密費のなかでの「政策推進費」86億8千万円の行方の謎の時代として。