鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

黄昏の日本資本主義  第86回

2022/01/26
  台湾の半導体メーカー「台湾積体電路製造(TSMC)」が、熊本県菊陽町に進出を決定した。これは無惨な「日本の新しい資本主義」の出発を告げるニュースなのだろうか。 

  これまで、日本企業の海外進出は破竹の勢いで進められてきた。1970年代のはじめからだが、公害の規制が弱いアジア諸国への逃避であったり、賃金の安さをもとめての進出だったりした。 

  ユニクロ製品がバングラデシュやミャンマーでつくられているのをみれば、販売拡大が労働者の人権と福祉の少なさとに反比例しているのがよくわかる。 

  繊維、電機、造船、自動車などの労働集約型産業の輸出量が多く、海外生産を拡大させた。それが国内生産の空洞化を招いてきた。「産業のコメ」といわれた鉄鋼でさえ、最大手の日鉄がインドなど海外生産量をふやそうとしている。 

  ところが、その一方、最近では産業の主食である半導体生産が、いつのまにか世界トップの座から転落して、世界での占拠率は10 パーセントにもみたない。 

  90年代、NEC、東芝、日立は世界の一位から三位を占め、富士通、三菱電機がそれにつづいて、シェアは50パーセントを占めていた。 

  「ジャパン・アズ・ナンバーワン」「技術立国」。かつての栄光だ。いまはアメリカのインテル、韓国のサムスン、台湾のTSMCには歯がたたない。そして、ついに台湾企業の日本進出。日本政府は4000億円の補助金をだす。が、最先端半導体ではない、汎用型の生産にすぎない。 

  日本の異論を認めない、集団主義教育がこの敗戦をもたらした。知識を覚えるだけの教育が、対話と他者を思いやることのできない優等生をつくり出した。 

  隠蔽、捏造、排除の論理は、安倍、菅、岸田の長期自民党政権とつづき、官庁と企業を覆う悪習として常態化した。 

  裁判を拒否してカネで口封じを図った、財務省の「赤木俊夫事件」の顛末。日本学術会議会員6名を未だ認めない任命拒否事件。個の自由と尊厳を認めない教育と政治が、民主主義と国を滅ぼす。