鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

ロシアの戦争を利用する輩(やから)  第94回

2022/03/23
  プーチン大統領のウクライナ侵攻を、チャンスとばかり、右派政治家たちが蠢しゅんどう動しだした。 

  その筆頭の安倍晋三元首相、先週のこの欄でも書いたように、米核爆弾の「共有」という、とんでもない欲望をむき出しにした。米から言われたのかどうか。 

  核兵器禁止条約の締結が核非保有国の悲願となっている時代に、まったく無責任なピンぼけ発言だ。日本維新の会の松井一郎代表や自民党の福田達夫総務会長なども「議論が必要だ」とさっそくヨイショ。 

  広島、長崎の人たちが、原爆投下によってどれだけ死亡し、生き残ったにしてもどれほど辛酸を舐めたか。その悲惨が「もたず」「つくらず」「持ち込ませず」の「非核三原則」を決め、国是としたはずだった。 

  さらに、「防衛装備移転三原則」は、紛争当事国への武器の輸出を禁止してきた。ところが、国家安全保障会議(NSC)は、3月8日、自衛隊所有の防弾チョッキを、無償でウクライナに送る方針を決定し、すかさずポーランド経由で送った。どさくさ紛れの武器輸出、それも戦争への加担だ。 

  自民党の閣僚経験者は「日本が何もしなければ、台湾有事のときにだれも助けてくれない」と語った(「朝日新聞」3月9日)。自民党右派の議員たちの頭の中は、すでに「日本の戦争」で一杯なようだ。 

  自民党は地球温暖化に乗じて、「脱炭素」のためといって、原発を復権させようと画策している。 

  ロシア軍がチェルノブィリやザポロージェ原発を制圧したのをみて、「原発に自衛隊を配備させよ」と要求する首長があらわれた。 

  原発があることの危険がはっきり判った。福井県の杉本達治知事は、岸信夫防衛大臣と面会して「もしもの時のために、迎撃態勢と自衛隊基地の配備」を「緊急要請」した。 

  岸大臣は、「人員の配置はすぐには難しいかもしれないが、引き続きよく検討する」と語った、という。原発の存在は恐怖だが、海の彼方の戦争を利用して、日本の平和憲法意識を攻撃しつつある。