鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

君、死にたまうことなかれ  第97回

2022/04/27
  この原稿が掲載されたころ、ロシア軍のウクライナ東部での大規模攻撃がはじまっているのかどうか。人間が大量に殺戮され、街が瓦礫の山にされるのが予想されても、国際社会はなにもできない。 

  これから「予告された大量殺人」が起ころうとしている。が、だれも止められない。こんな不条理なことはない。ミサイルで殺されるウクライナの兵士や市民、他国で戦死して我が家に辿り着けないロシア兵士。その悲劇を止められない。 

  80歳以上なら、それぞれにヒロシマ、ナガサキの阿鼻叫喚。東京、大阪など各都市での空襲による大量殺人。中国や南の島での無惨な戦死。あるいは加害者としての虐殺行為をしっている。しかし、戦争をしらない戦後世代、さらに安倍元首相など、支配者の家系に生まれたものは、戦争の恐怖を煽って、ここぞとばかり火事場泥棒。核保有、軍備強化に誘導しようとする。

  人殺しを強制する行為こそ国家の最大の悪だ。「愛国心」がそれを促進させる。「君、死にたまうことなかれ」。与謝野晶子の一行が、時代を超えた真理だ。「殺すな!」を叫びつづけなければならない時代となった。 

  プーチンの冷酷さがロシア人嫌いを急速に増大させている。虐殺ばかりか、略奪も横行しているようだ。化学兵器や小型核の使用も懸念されている。 

  三月、ロシア軍はチェルノブイリ原発を占拠した。このとき「赤い森」と呼ばれている放射性物質で汚染された、立ち入り禁止区域に塹ざん壕ごうを掘ったり、土嚢を積み上げたりした。 

  ウクライナのハルシチェンコ・エネルギー相は「ロシア兵の無知は桁外れだ」(「東京新聞」4月日)と批判した。だから、無事にロシアに帰還したにしても、放射性障害に苦しむことになる。 

  たしかに無知による災いだ。しかし、原発を占拠させた指導者、さらにはウクライナに兵を進めて侵略させ、領土を確保しようとするプーチンの野望こそが、裁かれるべきだ。 

  兵士たちはその野望の犠牲者なのだ。誤った国の命令を拒否する自由を、どう確保するのか。