鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

横車と頬被りと泥靴  第139回

2023/03/15
  短命に終った菅義偉前首相の、あたかも悪意の発作のような日本学術会議への干渉だった。会員候補6人にたいする任命拒否、この暴政から2年半になる。首相が岸田文雄に代わっていよいよ攻撃が強まっている。

  昨年暮れ、内閣府は日本学術会議法を改定して、会員の選考に産業界など第三者を関与させ、首相の実質的な任命権を強調する方針をだした。任命拒否という受け身の反撃から、任命権の取得という権力行使の横車だ。

  学術会議側は、「学術会議の独立性を危うくしかねず、存在意義の根幹に関わる」と反発しているが、いまだ政府は6人の任命拒否について説明もなく、頬かむり状態だ。

  それでいて、今国会での法改正を狙っている。議席多数、野党分断状況下での自公政権の横暴だ。

  問答無用の強権と聞く耳を持たない頬かむりの政治姿勢は、もっとも非民主主義的だ。菅首相の本領と言うべき「冷然たる拒否」が、岸田首相の「丁寧な無視」に変っただけだ。

  野依良治・名古屋大特別教授や本庶佑・京都大特別教授など、ノーベル賞受賞者8人の学者が、政府の第三者で「選考諮問委員会」をつくって会員を選考する、とする方針に反対する声明をだした。

  「成熟した先進国の政府は、ナショナルアカデミー(科学者の代表会議)の活動の自律を尊重し、介入しないことを不文律にしてきた」「(法改正は)学術会議の独立性を毀損するおそれがあり、大きな危惧を抱く」「学術の独立性といった根源的かつ重要な問題につながる」とする声明である。

  政府方針に「首相による任命が適切かつ円滑に行なわれる必要な措置を講じる」とあるのだから、泥靴で踏み込むつもりだ。学術会議の独立はかつて学問が、日本の侵略戦争に協力した犯罪的な役割に対する、深い反省に基づいている。

  いま、政権は軍事拡大を急速に進め、産業界の軍需生産を拡大させ、武器輸出も認める、という軍国化を図っている。泥靴で踏み込む、というより軍靴で踏み込む、というべきか。反戦運動の拡大がいま求められている。