鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

一人でも闘う(上)   第148回

2023/05/24
      岸田政権とはなにか。「柳のように風に揺れながら折れることなく、風を受け止めていくのが持ち味」(牧原出・東大教授「朝日新聞」5月11日)。柳に風内閣、といえば聞こえがいいが、空白アタマの無方針主義。最大の欲望は首相の座を占めつづけ、三代目の家業を息子に受け渡すこと。これほど卑近な、欲望剥きだしの首相はめずらしい。

     安倍元首相は妻や取り巻きの利益を最優先。祖父・岸信介の対米従属と軍事化。この負の遺産を守り続けた。自民党を牛耳っている安倍派はその怨念を受け継ぎ、米軍の戦争に参加するため軍事化と増税、さらには破綻した原発体制を維持・拡大する。 

     軍備強化と原発再稼働。岸田内閣はこの亡国の風をさらに煽り、国会に諮ることなく安倍政治に追随、仲間うちだけの「閣議」決定を繰り返している。官邸主導を円滑にする「内閣人事局」の強権で官僚を抑え、官邸が小選挙区の候補者を選定するミニ独裁体制。もはや宏池会・岸田派にはリベラルの片鱗もない。

   安倍右派政権以来平和を掲げた憲法をかなぐり捨てても、野党には歯止めをかける力量なく、肝心の選挙民も政治的な無関心のままだ。いまなにをなすべきか。 

    彫刻家の関谷興仁さんは、栃木県益子町に自力で「陶板彫刻美術館」を建設した。そこには連れ合いの石川逸子さんの「ヒロシマ連祷」や、韓国済州島の虐殺をテーマにした金明植の詩「ハルラ山」などが圧倒的な力で陶板に刻まれている。 

     丸木美術館のように夫婦で力を合わせた美術館だが、ここで発行されている「朝露館だより」(23年春号)の巻頭に、根津公子さんのアピール「『少国民』は簡単につくられる」が掲載されている。 

     根津さんは1994年、八王子の中学校教員だったときに、教育現場への「日の丸・君が代」の強制に反対して処分を受けた。それ以後の「国旗国歌法」にも反対、従軍慰安婦やジェンダーフリーをテーマに授業を行って処分されながら、定年まで闘い続けた。軍国少年をつくらない平和教育の実践だった。一人でも闘う。この思想を実践した。