鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

暗い時代がはじまった  第158回

2023/08/09
  安倍晋三氏の長期政権のあとも日本の政治は対立点が不明確なまま、ずるずる惰性のように続けられている。この泥沼のような状況下で、維新のように「第二自民党」を標榜、おこぼれにあやかろうとする政治勢力まであらわれた。 

  「これまで教養がないと思われていたエンタメが、今や多くの人の生き方や考え方に影響を与えるようになっています。その意味で安倍さんは時代の先端にいたのです」(牧原出・東大教授『世界』8月号)。

  「不安定で逆ギレしたり、専門用語をいい間違え」たり。それがファンではない「推し」をつくったという。 

  安倍氏が取り入ったトランプ米大統領もそうだった。非知性的な言動が人気を博す。そのトランプ氏に迎合して、戦闘機を爆買いし、後継の菅、岸田政権が戦争を引き寄せた。岸田内閣の軍拡、戦費倍増、兵器輸出は安倍背後霊の支配だ。 

  安倍派の「推し」が生命線の岸田内閣は、武器輸出自制のプライドさえ放棄。英、イタリアと共同開発する、次期戦闘機の輸出容認から、平和の制止線「殺傷能力のある武器輸出」解除にまで進もうとしている。 

  そればかりか、「政府・自民党内には、米国で砲弾や原料の火薬が不足しており、運用指針を見直して米国向けに提供すべきだとも声がでている」(『朝日新聞』7月26日)。調子づく自民党。もはやなんでもありだ。 

  3年前、警視庁公安部が生物兵器の製造に転用可能だ、として、社長以下、会社幹部3人を「外為法違反容疑」で逮捕した、横浜の化学機械製造会社「大川原化工機」事件。11カ月も勾留し、1人を病死させた「公安事件」だった。

  起訴にまで持込んだが、結局、初公判前に起訴を取り消した。目下、損害賠償請求裁判中だが、6月の法廷で、捜査陣にいた公安部の現職警官から「まあ、捏造ですね」との証言がとびだした。でっち上げ事件だった。 

  兵器の生産や輸出がふえると、工場内外での機密厳守が強まる。「スパイ」容疑の逮捕や投獄がふえそうだ。暗い時代がはじまる。戦争への傾斜は、平和な生活の否定だ。