鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

汚染水海洋廃棄のあと  第161回

2023/09/06
  ついに汚染水の海洋投棄が決行された。それも予定通り、なんのためらいもなく。「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」という県漁連との確約を踏みにじって。 

  この世界にたいする蛮行、というべき地球環境汚染は、歴史に記録される、岸田内閣の原発爆走路線といえる。東電と原発政策をヤミクモに進めるための、環境、生命、健康、人権無視の共同作戦というべきか。 

  いつの間にか、マスコミは口裏を合わせたように「処理水」、と表現している。厳密にいうと、「多核種除去装置」を駆使して、処理しても放射性物質は残っている。トリチウムばかりではなく、セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素129、コバルト60などだが、「処理」の言葉を使うならば「放射性物質処理不完全水」、「核汚染処理後の残留水」と言うべきだ。

  あと30年から40年。それを安全だ、と無思想、無節操の岸田首相、死んだあと責任を取れるのか。 

  政府はI A E A(国際原子力機関)のお墨付きを得た、という。しかし、IAEAが独自に調査した結果に基づく見解ではない。ましてこの機関は、世界的な原発促進の機関、けっして中立的だとはいえない。政府はタンクをカラにして、その空き地で廃炉作業を進めるためだ、として、海洋廃棄反対論をあたかも、「復興工事」妨害者のようにいう。 

  政府は、汚染水を海洋投棄しないための方策を検討すべきだった。いまからでも遅くはない。風評被害のために800億円も準備するなら、タンクの大型化(石油備蓄の実績がある)、「モルタル固化処分」の方法がある。これは汚染水をセメントと砂でモルタル化して、半地下の状態で保管する方法だ。米国の核施設で実施されている。 

  トリチウムの放出は、すでに国内外の原発で行われてきた。まして青森県六ヶ所村の再処理工場が稼動したなら、膨大な量のトリチウムが放出される。この放射性物質の廃棄が公然と大量に長期にわたっておこなわれる。それを認めない。原発推進の野放図な環境破壊を阻止する。その課題が日程に上ってきた。