鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

歌を忘れたカナリアたち  第166回

2023/10/11
  最近、欧米を旅行したひとたちは、みな一様にクビをすくめて帰ってくる。昼食一品で3000円、国内なら500円から600円ていどのものだ。もう軽い気分で海外旅行には行けない。 

  急激な円安もあるが、日本の賃金が安すぎる。韓国よりも安くなった。世界のランクも落ちるばかり、かつての「ジャパン・アズ・ナンバーワン」はまるでウソのような落日だ。 

  前回、社長たちが何十億円もの報酬を得ている。それは例外としても、1億、2億円の年収は珍しくない、と記した。その一方で、フリーターからホームレス、無銭飲食で刑務所に収容され、ようやく食事と寝床とリハビリを受けられる高齢者がふえている。このマンガのような極端な格差が日本の現実であり、しかも拡大している。 

  この止めどもない貧困化の責任は、自分の家業を継ぐのが政治目標、世襲議員が閣僚を占める政権党の退廃にある(岸田政権では20人中8人)。ほかにも自民党4役に麻生太郎、小渕優子など、貧困にまったく無関心な幹部がいる。 

  さらに問題なのは、財界に支持されている自民党議員ばかりか、労働者の権利を守るはずの大労組の幹部に、政権党への批判がほとんどないことだ。

  芳野友子連合会長が、メーデーの演壇に岸田首相を上げて演説させ、野党の立憲民主党代表には挨拶させず、岸田に「光栄です」とのおべんちゃらだった。 

  そればかりか、電機労連出身の矢田稚子・元国民民主党参院議員が、総理補佐官( 賃金・雇用担当)に就任した。いわば労使一体化が、日本の労働運動を弱体化ばかりか、退廃を生みだしている。 

  日本の労働組合は企業内組合。親方日の丸。企業競争の先兵となり、企業防衛を最大の課題とする。不景気になると賃下げ、残業代カット、出向、年長者や女子労働者の首切りを認め、非正規をふやし、ストライキなどは「滅相もない」というのは、経営者と労組幹部とが一心同体だからだ。 

  自民党幹部とツーカーの芳野会長には、功なり名を遂げたという優越感しかないようだ。